抄録
上顎洞角化嚢胞性歯原性腫瘍(KCOT)の1例を報告する.患者は21歳女性.再発性のKCOTの治療を他院から依頼された.当科受診時,患者は既に保存的なドレナージ手術を2回受けていた.腫瘍は右上顎第2大臼歯由来であり,CTでは上顎洞内に大きく嚢胞様に突出し骨壁に包まれていた.過去の手術時に設けた小さな瘻孔が歯肉頬粘性移行部に確認された.その瘻孔を取り囲むように楔形の切開を加え,内視鏡を嚢胞内に挿入して明視下に腫瘍の剥離を進めた.骨壁を残して腫瘍を切除した.右上顎第1大臼歯の歯根への腫瘍浸潤が認められたため,右上顎第1大臼歯は抜歯した.骨性の殻を口腔内から破砕すると眼窩底を損傷する可能性があったため,鼻内から内視鏡下に上顎洞自然孔を開大し,開大した上顎洞自然孔側から腫瘍の骨壁を破砕した.その上で,再度,瘻孔部から内視鏡を挿入し,骨鉗子およびドリルを用いて可及的に骨壁を切除した.術中,腫瘍は全摘できたと判断した.瘻孔を縫合閉鎖し,鼻内に止血用ガーゼを挿入して手術を終えた.本症例は,口腔外科領域での手術への内視鏡導入の有用性を示すとともに,口腔外科医と耳鼻咽喉科医との合同手術の必要性を示すモデルケースであると考えられた.