Journal of UOEH
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全身屍蝋化した死体から薬物を検出した法医剖検事例
笠井 謙多郎 田中 敏子佐藤 寛晃
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2019 年 41 巻 2 号 p. 231-237

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抄録

特殊環境下で約5年が経過した検体から薬物を検出することができた事例を経験した.一部が白色から黒褐色に変色して硬く,いわゆる“屍蝋化”の状態であった大腿筋および骨髄を試料として,QuEChERS法による抽出の後,高速液体クロマトグラフィー質量分析装置(LC-MS/MS)により薬毒物スクリーニング検査を行ったところスルピリドおよびエスタゾラムを検出できた.大腿筋でのスルピリドとエスタゾラムの濃度を測定するとそれぞれ10.6 ng/gおよび39.9 ng/gであった.本結果は死因診断のみならず,両薬物の同時服薬履歴から身元特定にもつながった.薬毒物分析技術の進歩により,以前であれば薬毒物を検出することが困難であった陳旧な検体や特殊環境下の検体からも薬毒物を検出できるようになりつつあるが,本事例のように経過時間が5年とかなり長く屍蝋化した検体からの薬毒物検出の報告はない.薬毒物分析技術の進歩に伴いその結果は死因の診断のみならず個人識別の分野への応用が可能である.

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© 2019 産業医科大学
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