2021 年 43 巻 4 号 p. 445-453
日本では,がんをはじめとした疾患を持つ労働者の治療と仕事の両立支援(以下,両立支援)の取り組みが本格化している.産業医科大学病院では2018年に治療と仕事の両立支援部門として,多職種からなる就学・就労支援センターと,日本初の両立支援専門の医学的な診断・治療を行う両立支援科を開設した.診療科および主要診断群(MDC: Major Diagnostic Category)ごとの両立支援の対象数および診療報酬の算定数を明確にすることは,今後療養・就労両立支援指導料の算定基準を作成する際の基礎データとなる.今回我々は,両立支援外来が中心となった活動によって,3年間で704件の支援実績を達成することができた.コロナ禍にあっても,両立支援実施数は年々増加傾向にあり,支援実施の診療科数も増加傾向を認めた.就労に関する意見書発行数は2018年度28件,2019年度105件,2020年度54件と推移し,これに伴う診療報酬算定数も2018年度6件,2019年度18件,2020年度25件と年々増加している.活動実態の把握と今後の課題を明らかにすることを目的に実態調査を行ったところ,当院での両立支援への取り組みが拡大した要因としては,当院には産業医資格を有し疾患を抱えた労働者への基本的な支援スキルを習得済みである臨床医が多いという属人的強みと,両立支援ビジョンを明確に掲げることで,コロナ禍であってもその優先度が下がることなく取り組みを推進していく当チームの組織的な強みが挙げられる.社会的に両立支援の取り組みが加速する一方で,医療機関での両立支援の具体的な実績やモデルは未だ示されておらず,当院の本報告が本邦の両立支援活動を牽引し,国際的にも患者の治療と就労の両立支援モデルの一助となることが期待される.