抄録
産業立地の変化に伴い, その中で包括医療を推進しようとするためには, 対象となる住民のライフ・サイクルを基盤にその方法論とこれに基づく医療圏の設定が必要である. 元来, 医療は都道府県, ないしはその中での保健所区域といった行政のための地域で「健康保持」,「疾病予防」,「診断・治療ならびにリハビリテーション」の各スペクトル部分において断片的に, かつ種々なる方法を持って展開されてきている. しかしその前提となるのは現在の行政のための地域とは別の見地から対象とする医療のための地域社会を設定することであろう. そこで, 産業衰退のはげしい福岡県を例に地域の「社会的・経済的側面」と「人口特性」を中心にその範域を策定し, さらに生活関連性の観点から, 住民の行動空間の広がりにかかわる通勤・通学圏をとりあげ, それに基づく行動圏域と産業立地から考えられた地理的範囲を併せ考察し,妥当とする「医療のための地域社会」を設定し, それを検証すべく計量的枠組の中で第一段階としてweighted pair-group methodとprincipal component analysisを用い, ひきつづいてファジィ集合論の観点がクラスター分析の単一統分法を中心とする多変量解析的手法を用い分析を試みた結果, 16%レベルで同一の圏域を導出することができた. 本論文はhealth care regionの設定について定性的分析方法と計量的分析方法の妥当性について論述した.