抄録
本研究は前年度の同名の研究(No.8414)に引続き,高齢者の多様な居住のあり方を心身機能という共通の軸で捉えなおし,わが国における新しい居住の方向性を明確化することを目的としている。特に今年度は,前年度の概念形成や基礎的考察の成果を踏まえ,重点的に考察を深めるべき対象に詳細な実態調査を行い,現状における問題点や,望ましい居住様態に向けての課題を提示することを目的としている。本年度は,以下の3つの課題を設定し,各課題の前年度の知見を踏まえた上で実態調査を行い,考察を加えた。①高齢者の居住様態の検討:前年度は主に高齢者向けとして設定された住宅におけるケア・サービス条件と物的条件の結合のしかたについて考察したが,今年度は特に公的供給の実態を調査し,地域レベルでシステム化されて機能しているケア・サービス体系として,医療・福祉をも含めた地域の実状を把握した。②高齢者の住生活二ーズの検討:本研究では,高齢者の住生活二ーズを心身機能の低下により変化するものとして捉えようとしている。前年度は年齢群別の住生活二ーズを把握したが,今年度は主に身体機能の軸からみた考察を中心としている。一般的には潜在化していて捉えにくい二ーズを調査によって明らかにしたが,例えば従来「自称健康群」とみなされる層にも,建築利用動作能力の概念を導入することによって,二ーズが存在することを明示し得た。③在宅痴呆老人のケア・サービスニーズとその対応に関する考察:前年度は専用施設内の痴呆老人のケア・サーピス実態を明らかにしたのに対し,今年度は在宅における生活とケア・サービスについて多面的に捉えた。在宅生活においては,痴呆老人の特殊二ーズが物的条件と対応する上で問題が生じるが,これに関しては身体機能との関係や人的対応方法との関係が深いことが指摘できた。