住宅総合研究財団研究年報
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「型」の崩壊と生成
体験記述にもとづく日本住居現代史と住居論
鈴木 成文小柳津 醇一畑 聰一初見 学在塚 礼子友田 博道長沢 悟曽根 陽子笠嶋 泰戸部 栄一小林 秀樹菊地 成朋黒野 弘靖
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1989 年 15 巻 p. 85-96

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抄録

 住居は,地域により時代により一定の「型」を形成するのが常である。日本においても近世までは民家及び武士住宅に明瞭な型があり,近代以降も形を変えながら存続した。その「型」の急速な崩壊が起こったのは,戦後期,特に高度成長期である。本研究は現代の日本住居の「型」の崩壊と新たな「型」の生成の過程を,研究者自身の居住体験記述に基づいて描き出し,これをもとに現代住居の「型」を住様式と関わらせて論ずるものである。これは居住者の視点に立って住居史を捉え直す試みでもある。研究対象として,40余例の時代と地域の異なる多様な住居が得られた。それらはまた,長期間はとんど手を加えられずに住み続けられた住居,頻繁に増改築がくり返された住居,短期間のみ住まれた住居など,人生との関わり方も多様である。「型」については,本研究の主題である住居の全体像としての「型」が崩壊する中にあって,継承され,あるいは新たに生まれる部分的な住様式の型,さらには特定の個人や家族が住居を移り住む過程の中で継承される住み方の型が見出された。主な考察の対象は,戦前の「型」である中廊下型から現在の都市近郊の戸建住宅の典型,即ち1階に洋風LDKと和室,2階に個室,それらを玄関ホールと廊下で結んだ型に至る過程である。住み方や増改築によって居住者自身が新しい住様式の導入に方を注いだ例,しかし生活習慣の強さがそれを押し戻す例,一方,戦後の新しい住宅の型に規制された生活を余儀なくされた例,それらへの専門家や供給側の計画的な関わりなどの記述の中から,この現在の典型を,中廊下型以来の廊下による諸室の結ぴ付けを継承しつつ,和と洋の葛藤,機能の分化と重ね合わせの葛藤を含みつつ生成している型として読み取ることができた。体験記述による方法は,住様式を変化させる力と継承する力の対立の中で「型」の崩壊と生成が進む過程を,内側から動的に描き出すのに適している。

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© 1989 一般財団法人 住総研
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