住宅総合研究財団研究年報
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日本の近代住宅における食事形式と茶の間に関する調査
平井 聖内田 青蔵
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1989 年 15 巻 p. 97-108

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抄録

 日本人の食事形式は,近代化が急速に進んだ明治期以降,膳から食卓ヘ,食卓から椅子・テーブルヘと変化しています。膳とは,銘々の前に食器をのせて運ばれる膳,あるいは銘々の食器を納め,食事の時には食器をのせる台になる箱膳を指します。膳の場合には,家族が1室に会して食事をする場合もありますが,江戸時代には主要人物にはその居室まで膳が運ばれていました。食卓とは,家族が1室に集まり,1つの食卓のまわりに座って,食卓の上に銘々の食器を並べて食事をする形式です。椅子・テーブルとは,洋式のテーブルを使用して食事する場合で,椅子とテーブルを使いますが,1室に集まり,テーブルのまわりの椅子に座り,テーブルの上に銘々の食器を並べて食事をしますから,基本的な考え方としては食卓の場合と変っていないと言えるでしよう。これらの変化のうち,重要な意味をもっているのは膳から食卓への変化ですが,明治から昭和にかけて書かれた家庭小説等の中では,明治30年代にこの変化がはじまります。このような変化の担い手は,都市におけるいわゆる中流階級の俸給生活者たちと考えられますので,このような階層の一端を構成した蔵前工業会の会員にアンケート調査をしました。さらに,地方において同様な階層を構成したと考えられる例として,秋田県大館市の県立大館中学校(新制度で県立大館鳳鳴高等学校となる)の卒業生,東京の山の手における例として青山師範学校附属小学校(新制度で東京学芸大学附属世田谷小学校となる)の卒業生に対して行なった同様のアンケート調査の結果を比較しています。その結果,蔵前工業会員の場合と大館中学校卒業生の場合には,経年的変化にそれほど顕著な相違は認められませんが,東京山の手における特定の階層に限定した場合には,それらにくらべてさらに変化の時点が早いという特徴が認められます。

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© 1989 一般財団法人 住総研
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