抄録
台湾の伝統的農村住宅は三合院と称される形式が典型であるが,農村の近代化による家族関係・農業生産の変化等により,近年では農村集落・住宅は大きく変化している。また戦後の経済成長による都市への大量の人口流入により,都市住宅も従来の街屋と呼ばれる伝統的低層住宅から中高層の集合住宅へと移行し,アメリカ文化の影響の下で新たな住居形式が生まれ,今日では都市住宅の1典型となっている。本報告はこうした台湾における農村・都市住宅の変化の実態をとらえ,住様式の伝統性の継承と発展方向について考察したものである。主な知見を以下に記す。①三合院住宅は大家族の生活の場として生み出された住居形式で,その空間構成は風水思想の「生気観」や「位序観」に強く規定されたものであるが,世帯や財産の分離が進行し,今日では三合院の分割や部分的建替え,農地転用による新築等が行なわれ,従来の集落空間構造や住居形式は変化している。特に新築住宅は大半がRC造,2・3階建てになり,平面構成も多様化し,変化が著しいが,庁を中心とした構成原理は継承されている。②都市住宅は,伝統的街屋を源流とする菜刀型や透天さく形式の中層住宅が生まれ,地方都市における都市住宅のプロトタイプとなる一方,大都市では国民住宅や民間分譲マンションに代表される公私室型住宅が,都市集合住宅の典型となっているが,入口から直接庁につながる構成は共通しており,庁の前面配置の原則は保持されている。③このように今日の台湾の農村・都市住宅は多様化の方向にあるものの,庁を中心とした平面構成という点では共通しており,このことがアメリカ型の公私室型住宅の普及を支える要因となっているものと考えられる。しかしまた一方では都市・農村ともに「はきかえ」が普及し,玄関や畳居室を持つ住宅も現われ,関連して起居様式の面でも床座を行なう世帯が少なからず存在する等,日本の住様式の合理的側面が受け入れられている。