1992 年 18 巻 p. 405-420
88年度に行なった貴州省黔東南苗族トン族自治州での広域的な調査をふまえ,90年度には対象村落を1か所に限定して,トン族の集落に関する集中的調査を行なった。(天安門事件の影響で調査・研究のプログラムが丸1年延期された)。調査地は,第2次調査で最も斬新な知見をもたらした巨洞と同じ都柳江沿岸に位置する蘇洞上寨(住居散35・世帯数44・人口218)である。蘇洞は,従江県下江区の中心地である下江鎮に近接するため,巨洞などの僻地集落に比べるといくぶん漢化の様相が著しい。しかし,漢化もまた,トン族の文化を理解するうえでの重要なキーワードである。調査は建築班2班と民族学班1班に分かれ,建築班は集落内の主要家屋全戸の平面・断面の実測,民族学班は全世帯の家族構成・血縁および婚姻関係の把握を最低のノルマとし,余裕ができた段階で,村大工からの聞き取り,部材呼称の音声表記,通過儀礼・祭祀・禁忌に関する聞き取り,スケッチ・マップ調査などを相互協力のもとに進めた。本稿では,とくに龍脈に統制された集落の空間構造と,住居の平面・構造に映し出された漢化の様相に焦点をしぼって,蘇洞の住空間を素描してみた。