住宅総合研究財団研究年報
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雲南省ナシ族母系社会の居住様式と建築技術に関する調査と研究(1)
浅川 滋男田中 淡江口 一久小野 健吉溝口 正人何 耀華楊 昌鳴
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1993 年 19 巻 p. 117-135

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抄録

 雲南と言えば,東南アジアに隣接する照葉樹林帯の中核的地域として,強くイメージされてきた。しかし,400,000k㎡近い広大な面債を有する雲南省は,南と北で自然・文化の様相を大きく異にする。大ざっぱな整理になるが,南部は東南アジアのタイ系稲作農耕民文化,北部はチベット・四川の遊牧民文化と,それぞれ密接系譜関係を持っているのである。住居形式に着目しても,南部のタイ系諸族は木造高床式,北部のチベット・ビルマ語系諸族は,石・日干煉瓦・丸太を用いる組積造の平地土間式,という明快な差異が認められる(現在はさらに,これらの土着的住居全体が漢化しつつある。)本研究は,母系社会の遺存で名高い永寧ナシ族(モソ人)を対象とし,①アチュ婚(妻問婚)を基盤とする母系拡大家族の居住様式とその変容・解体,②累木式構法の技術的特質とその系譜に関する考察を,フィールドワークを通して進めようとするものである。とくに本年度は,ナシ族と関係の深い西北雲南のチベット・ビルマ語族(イ族・ペー族)および西蔵(チベット)自治区ラサ市のチベット族を調査対象に加え,②の建築技術的系譜の輪郭を把握しようと努めた。研究報告では,まず文献史料と考古学的デー夕により,先史・古代の中原・西域に起源する「羌」系の古遊牧民が次第に南遷して,現在の西北雲南に分布するチベット・ビルマ語族へと展開していく過程を示し,次に調査した11地区12件の住居例を報告した。最後に,今後の継続調査へ向けての予察として,(1)「羌」文化の痕跡としてとらえうる組積構造・累木式構法の系講,(2)母系から双系への家族と居住様式の変容,などの問題を論じた。

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© 1993 一般財団法人 住総研
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