住宅総合研究財団研究年報
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住生活管理の様式化(住生活文化の生成)と伝承過程に関する研究
山崎 古都子松村 京子与倉 弘子
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1993 年 19 巻 p. 137-146

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抄録

 本研究の目的は,安定した住生活を維持するために住生活管理の役割と伝承の意義を再考することである。住生活管理とは,住宅の物理的な維持保全のみならず,生活文化(住生活の仕方,態度,価値観,行事の持ち方)の再創造と伝承も含む。それは,住環境の具備すべき清潔・堅牢・安全・財産価値・アットホームな雰囲気という条件を整えるものである。結果の要約を以下に示す。1.地元の職人が住宅を施工し,居住者と職人の関係が維持された時代には,維持管理にも職人が責任をとるシステムが存在した。今日ではその関係が減少し,居住者には専門家と気軽な維持管理の相談が困難である。2.大規模な改善計画は長くても5年以内に限られ,将来を見越した計画を立てている居住者は少ない。3.多くの主婦が毎日か隔日掃除をする。有職の妻のうち,パートタイマーの掃除意識や態度は無職の妻に近い。フルタイマーは掃除の回数が少なく,内容も異なる。掃除には,91%の家庭で掃除機を使用しているが,フルタイマーは,時間の節約のために箒を使用する比率が高い。妻以外の有職者は日常掃除にあまり参加しない。4.大掃除は年に1回,正月の前が多い。3回以上では,行事・来客の前などである。大掃除の理由は日常掃除の大規模な補完であるが,その他,回数が少ない家庭では,習慣・恥をかかない・周囲がしているから。回数が多い家庭では,住宅の維持・礼儀作法が比較的多い。大掃除には家族が参加するが,やはり主婦が中心である。 5.多くの家庭で1年の出発点である正月の準備が必要であると認識している。時期は昔に比べると遅い。6.生活の秩序は次第に崩れつつあるが,時間の秩序は有子家庭に比較的多くある。ハレ用の道具は転居が機会になって減少する。7.今も多くの子供が正座をしている。親は恥をかかない・畳の正しい座り方・姿勢がよくなるために正座のしつけを認める。窮屈であるから不要という回答は少ない。以上,居住者の管理技術や意識は低下し,管理の機能的役割は忘れられつつある。伝統的な生活道具も転居を機会に減少する。一方,恥をかかないための管理行動は持続しており,他人の目に触れることへの配慮が生活態度を規定する大きな要因になっている。

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© 1993 一般財団法人 住総研
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