抄録
本研究は,室内照明のうち,色温度を中心とする光質の影響を従来の心理的評価にとどまらず,生理的手法を用いて快適性の面から検討するものである。照明の色温度を3000K,5000K,7500Kの3水準として,脳波を中心に測定した二つの実験が行なわれた。ひとつは25℃の一定室温のもとで脳波トポグラフィを用いて検討したものである。Fmθの出現率が7500Kで低く,右大脳半球で観察された比較的高いβ波平均電位から,高色温度照明が注意集中を妨げ,快適性を損なう性質のものであることが示唆された。もうひとつの実験は,さらに室温15℃,25℃,35℃の3水準を条件に加え,事象関連電位のN100,P300成分を測定したものである。その結果,色温度と室温の交互作用が示され,常温の高色温度が最も興奮性の高い刺激であることが示された。色温度3000Kと7500Kの2水準と室温変動を組み合わせた実験では,生理的には収縮期血圧について,心理的には温熱感覚について,それぞれと色温度との関係が従来の研究とは異なることが示竣された。赤,緑,青のカラー蛍光灯を用いて光源色の影響を検討した実験では,脳波θ波の出現率から,青の鎮静効果と赤の興奮効果が示竣された。血圧や心拍水準にも照明色による違いが認められ,今後のさらなる研究の必要性が示された。在室者密度と適正照度との関係を検討した実験では,在室者密度が増すにつれて必要照度を上昇させる必要性が認められた。本研究の他項目の結果から,光源色温度の影響が大きいと想像され,最適色温度についての研究が必要と考えられた。