抄録
エディブル・ランドスケープとは食べられる植物によって構成される景観であり,もともとは園芸で使われた言葉であるが,本研究ではその概念を都市空間に広げ,時間軸,空間軸の広がりの上にその意味を捉え直そうとした。主な調査地を都市化軸で分けた3地区とし,観察・聞き取り調査を実施しその結果をもとに異なる専門分野から検討を重ね,いくつかの事例の検討も加え,以下の点を明らかにした。エディブル・ランドスケープは子ども期の遊びの舞台の一要素をなしていたが,飽食の時代を背景に遊びや生活での接触は薄れている。今では庭や家まわりの果樹や鉢植えの植栽など,部分的な景観として存在するが,持ち主にとってはその植樹に何らかの思い出か記念の意味があり,愛着の度合いが強いと思われるケースも少なくない。収穫物は生食をはじめ加工などで生活の風物詩となり,また近隣とのコミュニケーションのきっかけとなっている。その活用の眼を養えば,個人の庭だけではなく周囲の環境の中にも食生活に活用できる種類が豊富にあり,生活に取り入れることが可能という生活スタイルも紹介された。また,江戸から明治期の園芸都市を構成した町人地や,武家地の後にも生活の知恵として脈打って,今日の宅地や路地裏の鉢植えなどのエディブル・ランドスケープに引き継がれている。ところが,環境との関わりが薄くなった人間の行為は,今日,エディブル・ランドスケープの阻害要因として働く。この課題に対して国内の事例では市民の参加や行政の営為,民間の努力によってエディブル・ランドスケープを形成している例もあり,また,米国の先駆例からコミュニティーでの運用によって,より環境問題と結びついた高度のレベルで実現が可能ということが示された。エディブル・ランドスケープは社会問題へのセラピー効果を示し,同様にこの言葉を題材にワークショッププログラムなどを組むことも課題解決への方向として示された。