抄録
3歳7ヶ月齢、体重6.5 kgのパグが軟口蓋過長による呼吸困難を疑われ来院した。口腔内診査では軽度軟口蓋過長が認められたほか、右上顎第3前臼歯が臨床的欠歯であり、左上顎第2前臼歯が半埋伏であった。CT画像診断では左右上顎から鼻腔にかけて嚢胞による気道の狭窄が認められた。過長部軟口蓋の切除後も呼吸困難は継続して認められたことから、嚢胞の切除手術を実施した。左右各々の嚢胞内には埋伏歯が認められ、病理組織検査結果から含歯性嚢胞と診断した。嚢胞の切除後に患者の呼吸状態は顕著に改善し、術後280日でのCT検査では嚢胞の再発は認められなかった。手術から500日経過した現在も呼吸状態は良好である。短頭種犬では外鼻孔の狭窄や軟口蓋過長などの上部気道の狭窄を生じる疾患が多く認められるが、歯原性嚢胞の発生も他犬種と比較して多くみられることから、呼吸困難を生じた際の鑑別診断の1つとして考えるべきである。しかしながら埋伏歯に伴う歯原性嚢胞では臨床症状を伴うことが少ないため発見が遅れがちである。そのため臨床的欠歯を認めた場合には早期に診断を行う必要性があり、歯科処置の際には常に口腔内レントゲン検査を行うべきである。