抄録
動物の常同行動とは,意味なく同じ行動を繰り返すことと定義され,常同行動の回数の増加は,動物福祉上の懸念を増加させると考えられている。母豚において犬座姿勢は常同行動の一つである考えられている。本研究の目的は,母豚の長期生存性と犬座姿勢の関連性を調べること,四肢障害またはその他の理由で淘汰された母豚の犬座姿勢を比較することであった。繁殖豚300頭一貫経営農場に3年間で11回訪問し,授乳時の母豚の行動を24時間録画した。犬座姿勢は24時間当たり総犬座姿勢時間と平均一回当たり犬座姿勢時間を指標とした。各母豚の生涯繁殖成績は生産ソフトで記録した。淘汰産歴が6産以上かつ淘汰理由が高産歴であった母豚を「長期生存した」,その他の母豚を「長期生存しなかった」として2グループに分類した。観察時の産歴で淘汰された母豚は,淘汰理由で「四肢障害」と「その他」の2グループにした。観察された205頭の母豚における24時間当たり総犬座姿勢時間,平均一回当たり犬座姿勢時間の平均は,それぞれ80.7±3.44分,2.6±0.11分であった。2つの犬座姿勢は長期生存に関するグループ間で違いはなかった。また,2つの犬座姿勢は導入から淘汰までの日数と生涯生存産子数に関連性はなかった。2つの犬座姿勢は淘汰理由グループ間で差はなかった。この研究は授乳豚の犬座姿勢は長期生存性や生涯繁殖成績に関連性がないことを示唆した。