抄録
1962年4月より16年間にわたり県内と畜場より蒐集した牛709頭, 豚791頭の雌性生殖器について, とくに卵巣および卵管周囲に発生する嚢胞を肉眼的・組織学的に検索したところ, 牛に815個, 豚に525個の嚢胞の発生がみられ, 発生率はおのおの32.3%, 29.3%であった. 発生部位は牛では采に多く(81.0%), 豚では卵管間膜に多くみられ(62.9%), 卵巣間膜においては牛・豚ともに発生率は極めて低く, いわゆる parovarian cyst の発生は稀であった. 卵管間膜に発生した嚢胞で卵管を圧迫していたものは牛では6個, 豚で14個みられた. 組織学的には嚢胞は3型に分類されたが, 性周期との関連性を追求したところ, 嚢胞は性周期反応を示すもの(反応型)と, 全く性周期反応を示さないもの(無反応型)に分類された. 反応型嚢胞上皮の性周期反応は, 卵管上皮のそれと極めて類似していた. それらを発生部位的に観察したところ, 後者は卵巣間膜および卵管間膜に発生し, 采での発生はみられなかった. また前者は間膜内にも発生がみられたが, 采に集中する傾向がみられた. これらの嚢胞はその発生部位および組織学的特徴から反応型は旁中腎由来, 無反応型は中腎由来のものと考えられた. 嚢胞による卵管圧迫例においては, いずれも卵管閉塞に至ったものは認められなかった. しかし卵管ヒダの部分的萎縮および消失が認められた.