抄録
BDF1マウス精巣組織の加齢に伴う退行性変化について, 光学顕微鏡および透過型電子顕微鏡を用いて形態学的検討を行った. 生後12力月齢までの精巣組織には異常は認められなかったが, 生後18力月齢の精上皮において空胞の出現が初めて観察された. 空砲は加齢に伴い増加傾向にあった. これらの空砲の存在する精上皮では, 精細胞は明らかに減少していた. 精細胞の脱落, 欠損により精上皮は薄層化し, 薄層化した精上皮においては正常な精子発生像は認められなかった. 生後30力月齢以降では著しく薄層化の進んだ精上皮が観察され, このような精上皮では精子細胞や精母細胞は, ほとんど認められなかった. このような著しく薄層化の進んだ精上皮では多くのセルトリ細胞は極性を失って扁平化しており, その突起が精細管管腔側に積み重なっていた. 一方, 生後24力月齢以降の精巣間質域で単核食細胞の増加が認められた. また, 生後27力月齢ではPAS陽性の細胞外マトリックスの出現が観察された. さらに加齢に伴い, ライディッヒ細胞に渦巻状の滑面小胆体が頻繁に出現した. 精巣組織の退行性変化は経時的に進行し, 精子発生不全像を呈する精細管は生後18力月齢ではわずか2.2%であったのが, 生後24力月齢では11.3%に達し, さらに生後33力月齢では63.0%を占めるに至った.