抄録
妊娠38日齢から60日齢までの犬の雄胎子61頭および生後0日齢から50日齢までの雄幼犬55頭の心臓または頚静脈から採血を行い, 血中4-androstenedione (A), 5α-dihydrotestosterone (DHT)およびtestosterone (T)値を測定した. また, 雄の胎子および幼犬を安楽死させた後, 精巣下降の状態を調べるとともに, 精巣の組織学的観察も実施した. 妊娠38および40日齢の胎子精巣は, 腎臓後縁に接していたが, 妊娠42日齢の精巣は, わずかに腎臓から離れた位置にあった. 生後0日齢においても, 精巣は腹腔内の内鼠径輪付近にあったが, 生後5日齢では, 精巣は鼠径管を通過しており, この時期の精巣下降は顕著であった. 生後35日齢以後に観察した幼犬の左右精巣は, いずれも陰嚢腔内に位置していた. 妊娠54および58日齢では, 性索内のgonocyte数が増加し, 間質のLeydig細胞の形態は成犬のそれに近くなり, 細胞集団を形成して, 他の間質細胞と容易に区別できるようになった. 胎子血中A値は, 出生後一時的に低下し, DHT値は, 妊娠54および58日齢で一過性に高値を示した. さらに, 出生後の雄犬の血中T値は, 顕著な上昇を示した. 以上の成績から, 犬では妊娠54日齢以後のLeydig細胞のDHTおよびT分泌能が高まり, これらのホルモン作用によって精巣下降が促進されるものと推察された.