抄録
雑種成犬5頭を用い, 非妊娠黄体期に左子宮内に外科縫合用絹糸を挿入して脱落膜腫を誘起したところ, 組織学的に子宮腺の増殖と拡張を伴った子宮内膜の増殖像が全例において観察された. これらの組織像は絹糸と子宮内膜の位置関係によって相違していたが, 比較的規則的な子宮腺の増殖分化像を示すものが多かった. これらの特徴は妊娠初期の胎盤形成過程の組織像に極めて類似しているところから, 絹糸が子宮内膜に与える影響は妊娠時における妊卵の作用とよく似ているものと考えられた. 絹糸挿入刺激によって作成された脱落膜腫では他の刺激源によるものと比べて, 正常脱落膜反応に極めて類似した組織像を呈するものが多いことがわかった.