抄録
着床相当の非妊娠黄体期の犬子宮内膜を人工的に刺激すると子宮腺の嚢胞状増殖をともなった胎盤類似の組織塊が形成されるが, これは犬における齧歯類の脱落膜腫に相当するものと考えられる. これまでの報告では, 脱落膜腫誘発の刺激は物理的なものが主体であった. そこで本報告では, 生物学的で最も子宮に馴染みやすいと考えられる刺激源として犬子宮片を選び, 脱落膜腫を誘起した. その結果は, 自己子宮片の場合でも, 極めて高度な子宮腺の嚢胞状増殖が誘起されたが, これらは物理的な刺激によるものと異なって, 妊娠子宮に似た規則的な分化配列を示し, 子宮片は母体組織に速やかに器質化される傾向が認められた. しかし, 他犬の子宮片を挿入した場合は強い炎症をともなった子宮片の融解壊死と, 自己の子宮片を挿入した場合よりいっそう激しく, 不規則な子宮腺の嚢胞性増殖が起こった. 以上のことから着床期の犬子宮内膜は, 非自己の子宮片に対し, 極めて強い反応を惹起するだけではなく, 機能黄体存在下の自己由来の子宮片でも, 強い反応を引き起こす事がわかった.