犬の脱落膜腫について, 刺激の違いによる組織反応の特徴を明らかにするために, 今回は刺激源としてブイヨンあるいはブイヨンとバリウムの混合液を用いた. ブイヨンは比較的長時間にわたり子宮内に停留する粘稠性の圧迫性刺激体となる. 一方, ブイヨンとバリウムの混合液は時間の経過と共に, ブイヨン中のバリウムが次第に凝縮して各種硬度のバリウム凝塊が形成され, 粘稠性のブイヨン液中に浮遊または, 沈澱した刺激体を構成する. レントゲン所見ではブイヨン中のバリウムは次第に分節状に分割され, あたかも妊娠初期の胎子のように子宮内で均等に分布, 配列する傾向が示され, 組織学的所見ではブイヨンのみを注入した場合は, 子宮内膜上皮あるいは表層部の子宮腺が子宮内腔に向けて増殖し, それらは樹枝状あるいは漁網状の構造を示した. 一方, バリウム溶液を注入した場合は, バリウム凝塊に直接する子宮内膜では全層にわたる子宮腺の嚢胞性増殖が認められたが, バリウム凝塊が内腔と直接せず, 周りをブイヨンが取り巻いている状況下では, はじめは表層部子宮腺の漁網状もしくは樹枝状増殖が見られたが, その後は次第に, それ以下の組織の嚢胞性増殖が顕著となった. その結果, 子宮内膜は海綿層, 腺被蓋層, 深子宮腺層に区分され, その組織構造は妊娠初期の胎盤と極めて類似したものであった. これらのことからブイヨン中に浮遊したバリウム凝塊は, 妊娠初期の胎盤における胎水中に浮遊する胎子に似た刺激を子宮内膜に与えるものと考えられた.
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