抄録
渇水等の水不足が生じるリスクが高まるほど、水利権の水量侵害が顕在化しやすくなる。水資源が豊富であったときには潜在化していた水利権の優劣問題が、絶対的水量の減少によって表面に現われるからである。水量侵害の事案では、同一水流において競合する慣行水利権の存否およびそれら権利相互間の優劣関係が問題となる。水利権が専用権として他の権利より優先されるのか、または余水利用権として他のものより劣後の地位に置かれるのか、それとも共用権として権利者が平等に流水を利用できるのかが争点となるため、慣行水利権の効力はその類型に投影されているといえよう。そこで、水量侵害の裁判例において、どのような法的救済が認容または否認されるかについて分析することによって、専用権、共用権、余水利用権の3つの慣行水利権の類型につき、それらの効力を詳細に考察した。そして、水資源分配の仕組みとしての3類型は、共用権を基軸に構成されるべきであり、慣行水利権の原型を共用権に求めることによって、そこから専用権と余水利用権の2類型が派生することについて考究した。