水資源・環境研究
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論文(論説)
  • ―金沢市の土地改良区を事例として
    山下 亜紀郎
    2023 年 36 巻 2 号 p. 80-93
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2023/12/30
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では、市内に多くの農業用水路が流れる石川県金沢市の17の土地改良区を対象に、農業水利施設の維持管理や多面的利用の実態、および行政や非農家との関わりについて明らかにした。その上で、各地区の地域的性格を踏まえた類型区分に基づいて、農家・非農家・行政の3者による維持管理のあり方について考察した。文化財として歴史的価値の高い用水路の維持管理には地区外からの参画がある。山麓地域では地域営農に非農家が参加することで担い手を確保している。市街地内では農業水利施設の内水排除・防災という公益的機能が重視され維持管理業務の行政移管が進んでいる。一方、市街地内で用水路が観光資源になっているところでは都市住民による自主的な維持管理がみられる。河北潟沿岸の農村地域では農家・非農家問わず地区全体で用水路を多面的に利用し、維持管理する慣習が残っている。
  • -大韓民国ソウル特別市・清渓川を事例として-
    坪井 塑太郎
    2023 年 36 巻 2 号 p. 94-104
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2023/12/30
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は、大韓民国ソウル特別市の清渓川を対象に、来訪者の利用行動と河川水質からの「環境」と、河道空間の施設構造からの「防災・安全」の双方の視点の一体的把握を試み、都市における水辺整備のあり方に関する検討を行ったものである。清渓川における利用の特徴は、昼間は、水に直接触れる行動や、河川内に入るなどの行動がみられ、日没後も河道内歩道に夜間照明が設置されていることから多くの来訪者がみられた点にある。また、構造の特徴は、側壁内に設置された合流式下水道管から雨水を含む汚水が河道内に流入することから、豪雨時には水位上昇に備え、警備員や警報装置による誘導、注意喚起が行われるほか、万一の逃げ遅れ対策用に避難用梯子の設置や水位上昇に対する警報掲示が行われていることを明示した。
  • 中川 晃成
    2023 年 36 巻 2 号 p. 105-115
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2023/12/30
    ジャーナル オープンアクセス
     淀川水系の三川合流部に本来的に必須であるべき遊水機能の排除は、沖野忠雄らが1894年「淀川高水防禦工事計画意見書」において提唱した。本研究では、淀川改良工事の指導原理となったこの意見書における立論の妥当性を検証した。沖野らは、巨椋池が淀川に持つ効用は「軽微なりと云うを得ずと雖も、亦、其水利に大関係ありと云うを得ず」と断じ、「大池(巨椋池)閉鎖の策を献ずる」ことを結論した。その際、論拠に据えたのが出水時の巨椋池の貯留水量の量的評価である。算出にあたっては、巨椋池と琵琶湖について湛水率と流入流出比を定義し、この両数値が正比するとの仮定を置いたが、これは誤った推論であった。さらに、沖野らは巨椋池の遊水機能は「瀬田川を遮断する方案に及ばさる遠きもの」と論じた。実際には、琵琶湖と巨椋池が有する遊水機能は互いに異なる河水に対して及ぶものであり、両者はそもそも代替関係にない。沖野らが意見書で示した淀川水系の治水の考え方はその後も踏襲され続け、その影響は今も強く及んでいる。
研究ノート
  • 中川 晃成
    2023 年 36 巻 2 号 p. 116-123
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2023/12/30
    ジャーナル オープンアクセス
     淀川水系の瀬田川支流大戸川に建設が計画される大戸川ダムの治水有効性の論拠について検証した。近畿地方整備局大戸川ダム工事事務所の「大戸川ダム建設事業 事業概要」(2023年3月作成)は、関連する審議会や淀川水系流域委員会での議論を踏まえ、同ダムの有する治水機能について解説する。そこでは、大戸川ダムは天ヶ瀬ダムの容量を一部肩代わりする「力強い助っ人」であり、天ヶ瀬ダムは「淀川本川筋に設けられた唯一のダム」として「三川合流点の水位低下に最も効果的」で、「淀川の下流域を守る最後の砦」であると位置付ける。しかし、実際の出水時には、この「最後の砦」の下流側で合流する木津川と桂川の河水が、三川合流部の広域に異常な水位上昇をもたらし、三川で最も河床が低い宇治川においてより顕著に発達する背水の主因となる。事業概要の記述は、淀川水系の水理の理解に欠け、大戸川ダムの治水有効性についての論拠が虚論であることを示す。
  • 仲上 健一
    2023 年 36 巻 2 号 p. 124-129
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2023/12/30
    ジャーナル オープンアクセス
     2000年の第2回世界水フォーラムでのGWPによる「水の安全保障」の問題提起から25年になろうとしている。日本においては、「水の安全保障戦略機構」が2009年1月に発足し、「チーム水・日本」として動きつつある。2023年には、UNUINWEHによる「Global Water Security 2023 Assessment」が出され、世界の国別レベルの評価が行われる段階に至っている。一方では、ウクライナ侵攻に関連して、カホフカダム破壊が現実化し、現時点において、「水の安全保障」論をどのように展開するかは焦眉の課題である。本論では、「水の安全保障」論研究の新展開を目指すべく、フィンランド、シンガポールの理論・実践の経験を学び、研究の方向性を探った。とくに、「水の安全保障」をめぐる関連要素を整理し、水の多様性・複雑性を考慮した研究のあり方を提案した。
  • 飯岡 宏之
    2023 年 36 巻 2 号 p. 130-136
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2023/12/30
    ジャーナル オープンアクセス
    この論考は、水道事業における水の安全保障を取り上げたものである1)。安全保障は国家の問題として研究され、人間、個人などの視点がよわい。しかし、世界的なコロナパンデミック、気候変動などをうけて、今ほど個人のケイパビリティがもとめられているときはない。その意味で、水道の安全保障は日本でも重要な概念になりつつある。  今日、人口減少によって独立採算制をとる水道事業は、このままの枠組みでは早晩に破綻することになる。政府は広域化によってこの状況を解決できるかのように、県に計画をつくらせ市町村と協議に入っている。広域化を一概に否定する訳ではないが、その弊害も著しい。水道事業を基礎自治体から切り離すことは、130年をへた水道事業が市町村によって建設され、維持されてきた歴史を否定しているといえよう。水道事業(下水道をふくむ)を地域の自然のなかにある環境装置とし、地域のコミュニティに取り戻すことこそが遠回りに見えても、危機打開の道であるといえる。
  • 平野 実晴
    2023 年 36 巻 2 号 p. 137-145
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2023/12/30
    ジャーナル オープンアクセス
     今世紀に入り、「水の安全保障」の概念が注目を集めている。しかし、その定義が国際的に確立しているわけではない。むしろ、国家は独自の戦略的な狙いにより水問題を「安全保障化」させてきた。水を介した脅威を除去ないし低減させる対応策もまた、「平和と協力の道具としての水」や「持続可能な発展のための水」の理念の下で各国から示されている。国際法政策の動向に目を移すと、水の安全保障化に基づき例外的措置を正当化しようとする国家の法的主張が注意深く退けられており、他方で、協力を通じた越境水域の管理、武力紛争時の水施設と環境の保護、水・衛生・環境に対する人権の保障、生態系の保全などを推進する国際法制度を強化する傾向が見られる。水の安全保障を確保するグローバル・ガバナンスにおいて、安全保障理事会が担う役割への期待は高まっているが、武力紛争に関連する事態を超えて役割を拡大する際には、慎重な体制整備が必要となる。
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