抄録
水資源管理全体の中で時代変化に対応しながら、柔軟的、合理的、個別的な農業用水管理ができるよう、農業用水管理制度と農業水利権を再デザインしていくことが、重要課題として残されている。水資源管理のサスティナビリティを追求する上でも、農業用水管理制度の改革の方向性と、改革実現に伴う論点に関する深い議論が求められる。本稿では、複雑で特殊とされる日本の農業水利権を体系的・相対的に捉え直すことを目的に、プロパティ・ライツ制度の分析枠組みを適用して、資源管理上、重要と考えられる構成要素を析出し農業水利権の制度的特徴を検討した。水利制度改革が進むオーストラリアと比較しながら、農業用水の集団的管理という日本的特徴は、個別レベルでの排他性、移転性、分割性において不完全度が相対的に強いことに由来することを明らかにした。さらに、管理制度デザインの課題に関して農業用水と農地の管理制度の整合性など包括的な論点も提示した。