抄録
わが国の環境研究を振り返ると、環境政策の政策過程分析は意外なほど少ない。本稿の目的は、1964年に制定された新河川法を素材に、水政策の政策過程分析の意義と可能性を論じることにある。政策過程は、誰がどのような根拠や思想に基づいて、どのように政策をつくるのかに焦点を当てる。そこには、官僚組織内部あるいは国会で法律が調整される様を分析する制定過程も含まれるが、制定過程分析よりも長い期間を想定する。政策過程を分析するさい、制定過程ではなくより歴史的に多角的に政策変化を分析するための「鳥の目」と、ある法律案が法律になるまでの一連の制定過程を分析するための「虫の目」のどちらも重要となる。前者は御厨貴が指摘した点、つまり1950年代は建設省主導による新河川法改正のために外堀が埋められる期間であり、河川法以外の水資源関連法の政策効果が重要であった。さらに、新河川法の制定過程を虫の目から分析すると、この解釈は正しいことが分かる。今後、水政策の政策過程分析をもっと増やすことが求められ、鳥の目と虫の目の両方から分析することが重要である。