水資源・環境研究
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研究ノート
大戸川ダム治水有効性の言説の検証
中川 晃成
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ジャーナル オープンアクセス

2023 年 36 巻 2 号 p. 116-123

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抄録
 淀川水系の瀬田川支流大戸川に建設が計画される大戸川ダムの治水有効性の論拠について検証した。近畿地方整備局大戸川ダム工事事務所の「大戸川ダム建設事業 事業概要」(2023年3月作成)は、関連する審議会や淀川水系流域委員会での議論を踏まえ、同ダムの有する治水機能について解説する。そこでは、大戸川ダムは天ヶ瀬ダムの容量を一部肩代わりする「力強い助っ人」であり、天ヶ瀬ダムは「淀川本川筋に設けられた唯一のダム」として「三川合流点の水位低下に最も効果的」で、「淀川の下流域を守る最後の砦」であると位置付ける。しかし、実際の出水時には、この「最後の砦」の下流側で合流する木津川と桂川の河水が、三川合流部の広域に異常な水位上昇をもたらし、三川で最も河床が低い宇治川においてより顕著に発達する背水の主因となる。事業概要の記述は、淀川水系の水理の理解に欠け、大戸川ダムの治水有効性についての論拠が虚論であることを示す。
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© 2023 水資源・環境学会
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