抄録
この論考は、水道事業における水の安全保障を取り上げたものである1)。安全保障は国家の問題として研究され、人間、個人などの視点がよわい。しかし、世界的なコロナパンデミック、気候変動などをうけて、今ほど個人のケイパビリティがもとめられているときはない。その意味で、水道の安全保障は日本でも重要な概念になりつつある。
今日、人口減少によって独立採算制をとる水道事業は、このままの枠組みでは早晩に破綻することになる。政府は広域化によってこの状況を解決できるかのように、県に計画をつくらせ市町村と協議に入っている。広域化を一概に否定する訳ではないが、その弊害も著しい。水道事業を基礎自治体から切り離すことは、130年をへた水道事業が市町村によって建設され、維持されてきた歴史を否定しているといえよう。水道事業(下水道をふくむ)を地域の自然のなかにある環境装置とし、地域のコミュニティに取り戻すことこそが遠回りに見えても、危機打開の道であるといえる。