2020 年 19 巻 4 号 p. 222-226
49歳,男性。初診 1 ヶ月前より,右鼠径部に暗赤色の紅斑が出現した。初診 1 週間前より,近医にて副腎皮質ステロイド剤および抗生物質外用にて治療が行われるも皮疹は改善しないため当科紹介となった。初診時,右鼠径部に,潰瘍を伴う無痛性の暗赤色局面がみられ,その中枢側にはリンパ節腫脹が認められた。血液検査にて梅毒検査(定性 RPR,TP 法)陽性,CRP,可溶性 IL-2 レセプターは高値を示していた。病理組織学的には,真皮内に形質細胞主体の炎症細胞浸潤が認められ,異型細胞はみられなかった。この時点で梅毒が強く疑われ,再度生活歴を聴取したところ 2 ヶ月前に風俗店で性的接触があったことが確認された。詳細な梅毒検査を施行したところ,FTA-ABS IgM が高値であった。以上より,本症例を陰部外下疳と診断した。アモキシシリン 1,500 mg/日にて治療開始したところ,投与39日後には鼠径部の潰瘍局面は大部分が上皮化し,投与89日後には色素沈着を残して瘢痕治癒し,リンパ節腫脹も消退した。陰部外下疳は,口腔内,口唇発生の報告例多いが,鼠径部に発生した報告例は,本邦における過去30年間の中で自験例のみであった。潰瘍を伴う硬結をみた場合,陰部以外に生じた場合でも梅毒を念頭にいれ,生活歴を含めた詳細な問診と梅毒検査を行う必要性がある。 (皮膚の科学,19 : 222-226, 2020)