地理学は"自然と人間との関係"を中心的研究課題とする"環境の科学"たることを自認してきた。では地理学はその伝統を生かして現今の環境問題によく対処しうるであろうか。近代地理学の"本流"をたどってみると,"自然と人間との関係"の把握は,先ず,そこに神の摂理に導かれた調和をみようとするロマンチシズムから始まった。次に,これに代えるにダーウィニズムをもってする自然科学的一元論とそれに根ざした自然決定論が登場した。"自然"と"人間"との間に本来の"歴史"を挿入しようとするかにみえる見解も一定の有力な地歩を占めたが,そこでも社会科学的・歴史科学的立場が貫徹されたわけではなく,環境と人間との関係が"生態学"の枠にとじこめられてしまった。以後も,景観論的・擬似生態学的な見解からする社会科学忌避の傾向が根強い。これが克服されない限り,人文地理学は現実の環境問題の本質にとうてい迫り得ないであろう。