抄録
植生や水辺からの蒸発散は、私たちが住む地域にとって、消費水量としての側面と熱環境を緩和する役割を併せもつ。本稿では、農地による熱環境緩和効果の定量的な評価を目的として、以下のことを明らかにした。(1)蒸発散によって地表面近くの熱環境を緩和する真夏の正午頃における水田の能力は、家庭用のエアコンが2~3m四方の地面に一台の割合で設置された状態に相当する。(2)水田は、湛水条件とイネの気孔開度の影響で表面の水分が比較的高く、植生の空気力学的特性によって熱や水蒸気の輸送能力が高いという二つの効果がはたらくため、水面、裸地、畑地よりも表面温度を低く抑制する。また、蒸発散による消費水量あたりの熱環境緩和効果は、水面や裸地よりも植生面のほうが高い。(3)潅漑農地は、風上の裸地や舗装地から輸送された熱の吸源になり、その風卞に大気の冷却効果をもたらす。その効果がローカルスケールで定量化できた。