木材学会誌
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一般論文
木材のメカノソープティブクリープに及ぼす脱リグニン処理の影響(第1報)
放射方向試験片の瞬間及びトータルコンプライアンス
張 文博徳本 守彦武田 孝志安江 恒
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2006 年 52 巻 1 号 p. 19-28

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抄録
木材のメカノソプティブクリープ(MSクリープ)は,外力と水分吸着の相互作用によって発生する。この複雑な現象に対していくつかの仮説が提案され,この挙動に関する知識は蓄積されてきた。一つの典型的な現象として,連続負荷のもとでのMSクリープは,負荷下の脱湿/吸湿過程における新たなクリープ変形と,無負荷下の吸湿/脱湿過程におけるセットの回復の重ね合わせに等しいことが示され,あたかも木材は,負荷を受けた含水率変区間を記憶しているかのように振る舞うことが知られている。本報告では,放射方向試験片のMSクリープに及ぼす脱リグニン処理の影響を検討することによって,この疎水性成分のMSクリープに対する役割を明らかにすることを試みた。
3段階に脱リグニン処理した試験片と,コントロールとして無処理試験片を用いた。負荷条件は以下の3つである:Adサイクル(はじめの吸湿過程で負荷,次の脱湿は無負荷,以後これを繰り返す),Daサイクル(はじめの脱湿過程で負荷,次の吸湿過程は無負荷,以後これを繰り返す),そして連続負荷のADサイクルである。すべての過程に対して含水率サイクルを5回繰り返した。試験温度は20℃一定,相対湿度の変動範囲は,RH40%~RH94%とした。
強度の脱リグニン処理では,瞬間コンプライアンスJ0とトータルコンプライアンスJTがコントロールに比較して顕著に大きくなった。強度処理における,Ad,Da,そしてADサイクルのJTのコントロールに対する比はそれぞれ5.1,4.0,5.2倍であった。JTはリグニン含有率の減少とともに顕著に増加したが,JTJ0の間に明確な直線関係が認められた。AdとDaサイクルによるJTを重ね合わせると,連続負荷のAD過程のJTにほぼ等しくなった。以上の結果から,脱リグニン処理のMSクリープに及ぼす影響は,定量的に顕著であったが,定性的には大きな変化をもたらさないと考えられた。
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© 2006 一般社団法人 日本木材学会
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