現実社会において社会福祉と呼ばれる社会的事象は極めて多様な様態を
なしている.その成立には社会的承認を伴うことが指摘されているものの,
前提となる価値判断自体が時代や社会の変遷に伴って変化を遂げる.そ
こで,成立した結果としての社会的事象を整理や分析することによって社
会福祉を捉えるのではなくそれが成立する過程に着目し,社会福祉の対
象規定における利用一提供関係を把握する.そして,利用主体は単なるサー
ビスの利用者や受益者としての受動的立場に留まらず,社会福祉の対象を
規定する上で、能動的役割を担っていることを明示化する.これにより,利
用一提供関係における主体間の対等性を観念的な理想としてではなく,実
証的に考察することを可能にする.
具体的には,利用一提供関係を理念的に類別して権力関係・交換関係・
相互理解関係を導出し,これらが複合化して現れることを論証する.その
上で,個々の価値観と社会的価値観が双方向的にかかわり,相互に規定し
合うことによって,社会福祉として判断される範疇はその妥当性の確認や
再規定が繰り返されることを明らかにする.さらに,この過程では主体性
の発揮が困難な主体の権利擁護が不可欠であるため,社会福祉領域におけ
る権利擁護が,権利侵害からの擁護という直接的意義を有すると同時に,
対象規定においても社会福祉の範疇を再規定する契機としての重要な意義
を有することを明示化する.