福祉社会学研究
Online ISSN : 2186-6562
Print ISSN : 1349-3337
特集1  比較福祉研究の新展開
東アジアの企業福祉と社会保障制度
6カ国・地域の調査結果から
末廣 昭
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2014 年 11 巻 p. 11-28

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抄録
東アジア福祉システム論は,欧米型福祉システムとの大きな違いとして, 福祉国家の後進性を指摘し,逆に,家族と企業が福祉サービスの中で重要 かっ補完的な役割を果たしていると主張してきた.ただし,介護などに占 める家族の役割については,本格的な国際比較が開始されたものの,企業 福祉そのものについては,実証的な研究は皆無に近い.そこで,私たち共 同研究チームは,中国,韓国,台湾,タイ,シンガポール,インドネシア の6カ国・地域を取り上げ, 2006年に企業福祉に関する統一的な質問票 調査を実施し,計804社から回答を得た実施した調査項目は,経営側の 企業福祉観,企業内福利厚生の有無(社宅,食費補助,送迎バスなど24 項目),労働費の構成(法定福利費,法定外福利費,退職金の比率)など である. 企業調査の結果, 6カ国・地域の企業福祉に共通する特徴を見出すこと はできなかった「企業福祉を重視する」という見解は共通していたものの, 重視する理由や成果主義的な賃金とのトレードオフに関する意見は,国に よってばらつきが見られたからである.また,労働費の構成は,①日本・ 韓国・台湾,②シンガポール・マレーシア,③タイ・インドネシア,④中 国の4つのグループに分かれた.こうした労働費の構成の違いは,各国の 経路依存性, ILOなど国際機関の役割,企業の戦略の違いによるもので, 東アジア福祉システム論が主張する儒教主義や経営家族主義といった地域 固有の特徴は確認できないというのが,本稿の結論である.
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© 2014 福祉社会学会
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