福祉社会学研究
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特集1  比較福祉研究の新展開
アジアにおけるケアレジームの比較研究
3つのチャレンジ
落合 恵美子
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2014 年 11 巻 p. 29-45

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抄録

アジア社会の比較研究には、欧米圏と異なる社会的背景をもつことから

生じる「問題設定におけるチャレンジ」、対象に適合した理論化を行うた

めの「理論枠組におけるチャレンジ」、比較可能なデータが未整備であるこ

とによる「データに関するチャレンジ」という、少なくとも3つのチャレン

ジが随伴すると考えられる。アジアにおけるケアレジームの比較研究では、

まずケアに関する問題設定は、高齢化や女性労働力率の上昇よりも、まず、

国力の基礎としての人口の量と質への関心と強く結びついている。また比

較研究の理論的枠組みとしては、国家の実施する政策に焦点を絞るのでは

なく、家族、市場、コミュニティなどのはたらきも視野に入れるケアダイ

アモンド図式が適している。また、比較可能なデータが存在しないことも

大きな問題であり、政府統計などから関連の統計を集めることも容易では

ない。ケアにかける時間で測定するのがもっとも直接的なので、生活時間

調査を用いた分析を試みるべきである。さらにもうひとつ、ケアレジーム

の変容に関する理論枠組として、「家族主義」と「脱家族化」を対比するばか

りでなく、「福祉国家によるか市場を通じてか」という「脱家族化」の2つの

方向性に着目して、「国家化」と「市場化」という2つの軸を直交させてでき

る4象限を立ててみることがアジアにおける比較研究では重要であろう。

その枠組で「社会主義」から福祉国家への移行も位置づけることができる。

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