福祉社会学研究
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特集1  比較福祉研究の新展開
福祉国家と市民社会の「相互排除パラダイム」を再考する
仁平 典宏
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2014 年 11 巻 p. 46-59

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抄録

本論文の主要な目的は,福祉国家と市民社会(非営利セクター)との相

互排除仮説を検証することである.相互排除仮説とは,社会保障の拡充と,

人々の自発的なアソシエーションへの参加とが負の相関関係にあると想定

する議論である.この仮説を検証するために,本稿では, OECDの社会保

障に関するデータと世界価値観調査のデータを用いて国家間比較を行い,

福祉国家と市民社会との間にどのような関係があるのか明らかにした.

主な知見は次の通りである.第一に,社会保障支出の大きさと参加の活

発度の間に線形の関係はなく,レジームごとに異なるパターンが見られた.

これは社会保障の拡充が活動的な市民社会を抑圧するとは言えず,つまり

相互排除仮説は支持されないことを示唆する.第二に,福祉国家も市民社

会(非営利セクター)も一枚岩ではなく,それぞれ様々な機能や側面を持

つが,諸機能間の関係には正及び負の相関や無相関など多様な関係があり,

両者の関係を一義的に同定することはできない第三に,経時的分析の観

点からは, 1995年から2005年にかけて,社会保障の伸びと市民社会への

参加の伸びとの間に負の相関が見いだされた.これは相互排除的な仮説が

全く棄却されるわけではなく,ネオリベラル化という文脈の中で部分的に

指示されうることを示唆している.

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