本論の目的は,サードセクター研究におけるサードセクター組織と規範性の
関係性をたどることである.サードセクター研究は規範的なものとなりがちで
ある.これは,サードセクター組織自体が何らかの規範的目的を追求し,研究
もサードセクターの規範的立場に自らを重ねあわせてきたためである.多くの
場合,サードセクターが体現する規範性は一元的なものと想定された.しかし,
セクター境界の曖昧化とセクター内部の多元化により,そのような前提の揺ら
ぎは顕在化している.本論では,サードセクター研究の変化をたどることで,
柔軟な組織形態と規範性を分析する枠組みを検討する.本論の主張は,サード
セクター研究における組織形態と規範性の結びつきは3 つのステージに分ける
ことができるというものである.1990 年代までの研究は,セクター本質主義
を前提とする考え方(本論では「第一ステージ」と呼ぶ),原理の媒介をサー
ドセクターに見出す考え方(本論では「第二ステージ」と呼ぶ)に区分でき,
さらに,近年では,制度ロジックという枠組みを用いた,サードセクター研究
の「第三ステージ」とも呼べるような研究がみられている.組織形態と規範性
を柔軟に分析することに,「第三ステージ」の研究の意義がある.これらの検
討は,社会給付のサービス化が進行するなかで,福祉にかかわる組織のより良
き理解に貢献するものであり,福祉社会学の規範的課題を解くうえでも重要な
作業である.