福祉社会学研究
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【特集論文】 規範的探究の学としての福祉社会学の可能性
福祉と規範
市場とコミュニティを再考する
亀山 俊朗
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2016 年 13 巻 p. 42-55

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抄録

 私たちは自己調整的な市場と規範的な福祉制度の対立という構図を想定しが

ちだが,逆に前者のほうが規範的な正義を含意し,後者は自生的な対抗の結果

だと考えうる.言い換えると,福祉への要求は必ずしも規範的でない.実際福

祉国家の社会的シティズンシップは,グローバル化のもとその正統性が問われ

ている.K. ポラニーは労働,土地,貨幣は商品化できず,自己調整的市場は擬

制であるとした.その擬制を支える体制として20 世紀には福祉国家というコ

ミュニティが有力となり,その内部では労働,土地,貨幣は一部脱商品化され

た.しかしグローバル化のもと福祉国家をはじめとする20 世紀的なコミュニ

ティの枠が流動化し,新自由主義政策の推進による社会の分裂が懸念されるよ

うになった.その克服のために社会的包摂や熟議民主主義が提案されているが,

C. ムフに従えばそれよりも闘技的な敵を設定した政治や生活様式を共有するコ

ミュニティの構築が重要である.その事例として,外国人の排除が懸念される

公共住宅のような場で,外国人日本人を問わない住民・対・住宅を管理する自

治体といった交渉可能な闘技的対立関係を構築しつつ,共同生活を発展させる

ことが考えられる.R. セネットのようなプラグマティストの主張するように民

主主義の技法を洗練させ,かつ適切な敵を設定しながら共同生活を構築すると

ころにしか,福祉と規範の関係性は見いだしえないだろう.

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