2017 年 14 巻 p. 75-94
移民と福祉国家の関係に注目する従来の研究はグローバル化のもとでの福祉国家の持続可能性に関心を向け,移民をもっぱら福祉国家に危機をもたらす存
在として捉える傾向があった.近年,EU 諸国を対象とする研究においては,こうした傾向に変化がみられる.
移民の貧困という研究課題を提示したD. セインズベリーの研究以降,福祉国家にとっての移民ではなく,移民にとっての福祉国家に着目する研究が行われるようになってきている.
とくに注目されるのは,移民の貧困率や市民と移民の貧困率の差にみられる国ごとの違いが何によってもたらされているのかという問題をめぐる議論である.
この論文では,シティズンシップ研究の観点から,移民の貧困をもたらす要因に関する近年の比較研究の成果を整理するとともに,
そこに本論文独自の分析を加えることで,移民の貧困に関してどのような仮説がどの程度まで検証されており,どのような研究課題が残されているのかを明らかにする.
本論文は,先行研究が考えられる要因のうち統合政策の効果を検討してこなかったことを明らかにし,政策指標を利用した分析によって統合政策が貧困にあたえる効果を検証する.
そのうえで,論文の最後では現在までの研究の限界を明らかにし,今後検討されるべき課題を提示する.