2018 年 15 巻 p. 217-239
遠距離介護におけるコミュニケーションは,離れて暮らす家族が親元に帰省
した時の対面場面に限られず,彼らが普段暮らしている場所から行われる遠隔
コミュニケーションもまた重要性を持っている.そこで,遠距離介護を行う離
れて暮らす家族と,高齢の親に関わる介護の専門職者の間の遠隔コミュニケー
ションについて,カシオ計算機株式会社が開発したDaisy Circle というスマー
トフォン向けアプリによるSNS への実際の投稿をデータとする,会話分析的
研究を行うことで,以下の知見を得た.
離れて暮らす家族は,介護の専門職者からの親についての報告に対して,第
2 の報告という形で,自らが知識をすでに持っていることを主張することがあ
った.また離れて暮らす家族にとって,介護の専門職者から初めてもたらされ
る情報については,その詳細を介護の専門職に求めるのではなく,まずは家族
の内部で直接に把握しようとする試みが行われることがあった.それらは,介
護の専門職者から伝えられる情報が,本来的には家族があらかじめ持っている
べき種類のものであることを示している.つまり遠距離介護に関わる離れて暮
らす家族にとって,親の状況に関して介護の専門職者から報告を受けるという
こと自体が,親の安否とは異なる水準で,つまり知識の道徳性という次元で,
ある種のジレンマを意味しているのである.結論として,こうしたジレンマを
解消する一つの可能性が,SNS に高齢者本人を参加させることにあることを指
摘した.