福祉社会学研究
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【特集Ⅰ】「市民」の境界と福祉――「非-市民」と「部分的市民」から考える
部落の不可視化と政策過程
デニズン化とシティズンシップ
矢野 亮
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2019 年 16 巻 p. 33-53

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抄録

本稿では,被差別部落(以下,部落)の人びとの包摂策とはいかなるもので

あったのか.どのような政策をつうじて人びとが不可視化してきたのかを考究

した.結果,第一に,戦前からの一連の部落に対する自治体施策はデニズンシ

ップの保障を目指すものであった,第二に,一連の国の政策は部落の人びとを

不可視化していくものであった,第三に,同和政策は,結果的に,社会的権利

のような「結果の平等」までを保障するものとはならなかった.社会的権利は

ローカルなコミュニティに委ねられたままである.福祉国家のなかで展開され

た同和政策は,人びとのあいだに境界線をひき,部落の人びとをデニズン化す

るにとどまった.加えて,新自由主義的(と新保守主義的)政策が台頭し自治

体行政が後退するなかでは,部落の人びとのソーシャル・キャピタルの喪失に

とどまらず,デニズンシップさえ危うい事態に直面することとなる.市民共和

主義的市民権(civil republic citizenship)も自由主義的市民権(liberal citizenship)

も,部落というコミュニティにおける義務(相互扶助)を過度に強

調すること(communitarianism)をつうじて,シティズンシップすなわち「人

権としての福祉」を削減することに加担してしまった.こうしたなかで部落に

包摂された人びとは,労働者になることも,福祉受給者になることも,ますま

す困難な事態(複数の排除)に直面している.

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