抄録
専門職とクライエントとの相互作用において信頼のあり方はとても重要であるが,従来の信頼論では信頼と相互作用の関係について十分に明らかにされてこなかった。
本稿では,ナラティヴ・アプローチを採用し,保育園の保育者保護者間でやりとりされたナラティヴが記載された連絡帳を対象に,保護者による判定をもとに高い信頼を得たクラスとそうでなかったクラスを分け,特に保育者側ナラティヴに注目して,構造分析と関係分析からなるナラティヴ分析を用いて比較した。
その結果,高い信頼を得たクラスの保育者側ナラティヴにおいて,同じパターンのプロットが繰り返され「発達型」の特徴を有することが,構造分析より明らかとなった。また関係分析より保護者側ナラティヴとつながりをもたせたコメントを巧妙に接続していることが分った。つまりナラテイヴの「量」や「内容」よりも,むしろ「書き方」という側面に違いが見出されたのである。
最後に、なぜ保育者側の書き方の違いによって信頼関係のあり方に違いが生じたのかについて考察し,保護者の保育者に対する信頼において連絡帳上のナラティヴの形式がどのように機能したのか議論した。