福祉社会学研究
Online ISSN : 2186-6562
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7 巻
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特集 「共助」の時代・再考
  • 立岩 真也
    原稿種別: 研究論文
    2010 年 7 巻 p. 7-23
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    2009年の福祉社会学会大会でシンポジウム「(共助の時代〉再考」が開

    催され,筆者はその企画を担当したーその趣意文は以下である。例えば

    2000年の公的介護保険の開始までの間に,そしてその後に,何が日本の

    社会に起こってきたのか明日の我が身」が,そしてそのために,また

    それに加えて「共助」が語られてきた。語られてきただけでなく,その

    ような仕組みができて,社会福祉とはそのようなものであるということに

    なった。そしてその時皆が,有限性の認識を「程々に」という良識を,

    分け持っていたそのようにも見えるのだが,その見立ては外れているの

    かもしれない。すくなくとももっと様々があったし,あるのだろう。そし

    てその経緯,現況をどう評定し,そして今後を展望するか。報告者,討論

    者の方々に話していただき,そして考えてみたい」本稿では,このシン

    ポジウムの報告者であった後藤玲子と天田城介が本誌に寄せた論文から私

    たちが何を受けとることができるのか,それをどのようにこれからの我々

    の考察・研究につなげていくことができるのか,私の考える何点かを記す

    ものである。

  • 公的扶助の〈無条件性〉と〈十分性〉を支援する
    後藤 玲子
    2010 年 7 巻 p. 24-40
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    社会の中に,生活に困っている人がおり,その人を援助する必要があ

    るとして,私的な援助あるいは宗教的な慈善ではなく,なぜ, どのような

    根拠で,国の責任で扶助することが要請されるのだろうか。本報告の目的

    は,分配的正義の理論を参照しつつ,公的扶助の正当性をめぐる論拠を探

    り当てること,より具体的には,フライシャッカーの批判を手がかりに,

    ロールズ正義論とセンの潜在能力アプローチの射程を確認することにあ

    る。個々人の必要に応じた格差的な資源分配を,無条件に,十分になすこ

    とが,なぜ, どのような論拠で正当化されるのか, この間いに関する本稿

    の暫定的な結論は,ロールズの「何人も,他の人々の助けにならないかぎ

    り・・・,本人の功績とは無関係な偶然性から便益を受けてはならない」

    という命題を,アリストテレスの拡大解釈に基づく「リスクの前での対称

    性」,「広義の責任概念」,「広義の貢献概念」などで補助した上で,センの

    福祉的自由への権利という考え方で補おうというものである。後者は,個

    人の利益(interest) と意思(will)の尊重というきわめてオーソドックスな,

    けれども両立困難な近代の概念を具体化しようという試みである。

  • 天田 城介
    原稿種別: 研究論文
    2010 年 7 巻 p. 41-59
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー
    本稿では、戦前における社会政策についてきわめて簡略的に確認したうえで,戦後, とりわけ1970年代以降の老いをめぐる政策と歴史のダイナ ミズムを素描しつつ,それらを«制度分析の企て»の視点から分析することを目的とする. 結論として以下を記す戦前期の社会政策は「国民の必要」という«制度の計画»を超え,あるいはその計画を組み込む形で«制度の効果»が語られ国力増強と秩序維持」としての«制度の慣用»と«戦略的布置»が起こってきた. また,戦後における老いをめぐる政策では,もともとの«制度の目的»であった「必要」「保護」を超え,常に「悲惨」という〈効果〉が幾度も反復的に語られることを通じて,次第に「誰もが迎える老後」の«社会的不安»への「備え」としての制度がせり出し,の中で様々な目的への«慣用»がなされ,そのことによって国民・集団間の利害が形成されていくような«戦略的布置»が形成されてきた. 言うなれば,〈社会的なもの〉の不合理性,そのもとでの悲惨・理不尽さ,そのもとで現出する過少と過剰などへの痛烈な批判から,次第に〈経済的なもの〉へと編成されてきた が,今度はそのもとでの不合理性・悲惨・理不尽さ・過剰と過剰が広く人口に膾炙することを通じて今日の«制度»が作り出されていった.しかし,まさにそれこそが否応なく私たちを拘束してしまっている事態となっているのだ.そして,そのような複雑でもある«制度的被拘束性»が今日の私たちの「変革」を困難にさせ「基本」への立ち返りを躊躇させてしまっていることをまとめる.
  • 武川 正吾
    原稿種別: 講演記事
    2010 年 7 巻 p. 60-69
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー
自由論文
  • 行為論およびケアとの関連において
    石橋 潔
    原稿種別: 研究論文
    2010 年 7 巻 p. 73-98
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    この論文では,表情を交わし合う相互行為という行為概念の提示を試み

    る. このことによって,ケアや感情労働についての分析を深めることがで

    きる.

    表情を交わし合う相互行為とは,対面状況の中で,表情を媒介にして相

    互作用を行うことである.この行為は共同主観的性質を色濃く持つ.表情

    を交わす中で,私たちは互いの感情を理解し,そして互いの主観的世界を

    共振させる.そして,お互いを単なる客体ではなく,同型の主観性を持つ

    人間問士であることを認め合う.

    感情労働やケア労働のような対人サービスは,対面的関係の中で労働が

    成立するために,表情を交わし合う相互行為を伴っている.そのため労働

    現場では,表情について語られることが非常に多い.

    この相互行為の概念は社会的行為論に接合可能である.シュッツも同様

    に,ウェーバーも,直接に対面する社会関係の特殊な性質に気づいていた.

    またハーバマスは,行為論に共同主観的な行為類型が必要であると主張し

    ていた.

    この概念は,対人サービスの労働力商品化を分析のために有効である.

    ホックシールドによって議論された感情労働論は,主体一客体図式の行為

    類型を暗黙のうちに採用しているため,対面状況の分析が十分ではない.

    この相互行為の概念化によって,感情労働のような対人サービスが,直接

    的社会関係と匿名的社会関係という社会関係の中に向時に併存しているこ

    とを分析できるようになる.

  • T. H. マーシャルの継承と発展
    香川 重遠
    原稿種別: 研究論文
    2010 年 7 巻 p. 99-117
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    本稿では,マーシャルの市民権論を継承し時代の転換に応じて発展

    させることに成功したと考えられるピンカーの市民権論に注目した。ピン

    カーの市民権論は,主として,初期の著書『社会理論と社会政策』 (Social

    Theory and Social Policy) と『福祉の理念』 (The Idea of Welfare), さらに

    昨今の「贈与関係から準市場へJ (From Gift Relationships to Quasi-markets)

    において展開された一連の議論に集約される。本稿ではそれらの議論を中

    心に吟味したピンカーは,普遍主義と制度的モデルが市民権の地位を保

    証し,選別主義と残余的モデルがそれを脆弱にするという旧来の議論を否

    定し,むしろ現代的な一元主義と多元主義という概念に注目する必要があ

    ると提起した。ピンカーは「依存」を分散し「スティグマ」を軽減する

    という理由から多元主義を支持し,その理論的な具体化をルグランの準市

    場論に見出した.ピンカーは市民権の中道的特質を強調し,市民権とマー

    シャルの提起したもうひとつの重要な概念である「民主―福祉―資本主義」

    とのつながりに論理的な筋道をあたえた.ここにマーシャルの市民権論の

    発展があったと思われる。ピンカーの市民権論は「受け手」の観点から「与

    え手」のあり方を考えるという点で特異であると同時に,福祉国家研究に

    新たな視座をもたらすものであろう.

  • 知的障害当事者の自立生活への支援から
    三井 さよ
    原稿種別: 研究論文
    2010 年 7 巻 p. 118-139
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー
    本稿は,多摩地域における知的障害当事者の自立生活への支援活動を通して,当事者の意思を中心にしようとするとき,支援者がどのような課題 に直面し,いかにして自らを支援者として問い直すかを明らかにしようとするものである. 知的障害の当事者による自立生活を支援しようとするとき生活をまわす」「生活を拡げる」というこつの課題が支援者にとって浮かび上がってくる.どちらも当事者自身がなすことだが,当事者の意思決定に支援者が深くかかわっている以上,支援者もまたそれらを課題とせざるを得ない.それは課題としながらその内実を問い直すような過程であり,現在二つの課題が対立するように見えるときも,長期的なかかわりを前提とすることで,将来の可能性をさまざまに想定し,現在を相対化するような営みである. 地域という第三者がかかわるとき支援者は二つの課題の対立をもっとも激しく感じるが,長期的なかかわりを持つことが「あたりまえ」だという「前提」を貫くことで,地域との間のコンフリクトにも将来的な変化の可能性を見出し,個別の地域住民に働きかけている.こうした支援者たちの取り組みは,知的障害の当事者への支援に限られることでもなければ, 自立生活の支援に限られることでもない. 自らと異なる(他者)が生きていくのを支援しようとするとき,普遍的に現れる課題である.
  • 保育園における連絡帳のナラティヴ分析
    二宮 祐子
    原稿種別: 研究論文
    2010 年 7 巻 p. 140-161
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー
    専門職とクライエントとの相互作用において信頼のあり方はとても重要であるが,従来の信頼論では信頼と相互作用の関係について十分に明らかにされてこなかった。 本稿では,ナラティヴ・アプローチを採用し,保育園の保育者保護者間でやりとりされたナラティヴが記載された連絡帳を対象に,保護者による判定をもとに高い信頼を得たクラスとそうでなかったクラスを分け,特に保育者側ナラティヴに注目して,構造分析と関係分析からなるナラティヴ分析を用いて比較した。 その結果,高い信頼を得たクラスの保育者側ナラティヴにおいて,同じパターンのプロットが繰り返され「発達型」の特徴を有することが,構造分析より明らかとなった。また関係分析より保護者側ナラティヴとつながりをもたせたコメントを巧妙に接続していることが分った。つまりナラテイヴの「量」や「内容」よりも,むしろ「書き方」という側面に違いが見出されたのである。 最後に、なぜ保育者側の書き方の違いによって信頼関係のあり方に違いが生じたのかについて考察し,保護者の保育者に対する信頼において連絡帳上のナラティヴの形式がどのように機能したのか議論した。
  • 従来型特養における個別ケアの可能性と限界
    片桐 資津子
    原稿種別: 研究論文
    2010 年 7 巻 p. 162-181
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    本稿の問題意識は,従来型特養において個別ケアを実現させるための糸

    口を模索することにある画一的な集団ケアの問題を「介護労働の疎外」

    として位置づけ,これを打破して理想とされる個別ケアを実現していくた

    めの方向性を探究した。そのため,まずは分析枠組みとして「チーム介護」

    の概念を提唱した.つづいて,従来型特養において個別ケアに最も近いと

    される「ユニット志向ケア」を実践しているK園を事例として取り上げ,

    介護労働プロセスに着目することによって個別ケアの可能性と限界を明ら

    かにした。

    従来型特養のK園が実施したユニット志向ケアの導入プロセスを具体

    的に示すため, 7年間の断続的インタビュー調査による質的データを用い

    た「チーム介護」について時系列的に内容分析した結果,ユニット志向ケ

    アの導入プロセスが以下の5段階に要約されることを示した.すなわち,

    ①種まき段階と平行しながら,②実験段階と③模索段階を経て,④成熟段階

    に至ったのだが,最終的には,ある種の内部要因と外部要因により,集団

    ケアへの⑤半回帰段階を迎えたことを浮き彫りにした結論として,介護

    職員の労働プロセスにおいて他棟との壁や望ましくない競争が個別ケアへ

    の限界である一方でチーム介護」を強化するには個別ケアの本来の意義

    を常に聞い続け合う仕組みづくりに,その可能性があるとの見方を示した。

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