2010 年 7 巻 p. 162-181
本稿の問題意識は,従来型特養において個別ケアを実現させるための糸
口を模索することにある画一的な集団ケアの問題を「介護労働の疎外」
として位置づけ,これを打破して理想とされる個別ケアを実現していくた
めの方向性を探究した。そのため,まずは分析枠組みとして「チーム介護」
の概念を提唱した.つづいて,従来型特養において個別ケアに最も近いと
される「ユニット志向ケア」を実践しているK園を事例として取り上げ,
介護労働プロセスに着目することによって個別ケアの可能性と限界を明ら
かにした。
従来型特養のK園が実施したユニット志向ケアの導入プロセスを具体
的に示すため, 7年間の断続的インタビュー調査による質的データを用い
た「チーム介護」について時系列的に内容分析した結果,ユニット志向ケ
アの導入プロセスが以下の5段階に要約されることを示した.すなわち,
①種まき段階と平行しながら,②実験段階と③模索段階を経て,④成熟段階
に至ったのだが,最終的には,ある種の内部要因と外部要因により,集団
ケアへの⑤半回帰段階を迎えたことを浮き彫りにした結論として,介護
職員の労働プロセスにおいて他棟との壁や望ましくない競争が個別ケアへ
の限界である一方でチーム介護」を強化するには個別ケアの本来の意義
を常に聞い続け合う仕組みづくりに,その可能性があるとの見方を示した。