抄録
東日本大震災により生じたさまざまな問題は,それまでの日本社会の歪
みを顕在化させた.震災後のジェンダーをめぐる問題もそのひとつである.
本稿では「災害とジェンダー」に対する政府の問題認識を確認したあと,
震災後にみられるジェンダー問題とそれへの対応,および,震災から復興
への動きをとらえ,その検討を通して,日本における男女共同参画の現実
とその課題について考察した.
阪神・淡路大震災等を経験した女性たちからの問題提起を契機に,災害
時の女性のニーズについての認識も高まり,防災における男女共同参画は,
すでに国の政策の基本原則となっている. しかし,実際の防災分野は男性
中心であり,東日本大震災でも過去と同じ女性をめぐる問題が繰り返された.
ただし,その問題への対応に関しては,行政の動きや女性支援の市民
活動に以前にはない進展もみられ,今後はこれらの対応の実態を検証し,
災害時における男女共同参画の課題をとらえることが重要である.
求められる復興とは「ふつうの暮らし」が続けられるコミュニティの
再生であり,そのためにはさまざまな属性の人々の視点と力が必要である.
よって,復興への女性の参画は不可欠で、ある人々の多様性に基づくコミュ
ニティは,今後の防災の基本とされる「減災」の考え方に通じている.多
様な人々の参画によって,この復興の取り組みを進めなくてはならない.