抄録
本稿は,東日本大震災からの復興支援で注目されているキャッシュ・
フォー・ワーク(Cash for Work: CFW) を,ワークフェアと比較しながら
考察し,福祉社会の課題を明らかにしたCFWは,復興事業へ被災者を
雇用するものであるが,長期的な支援を必要とする災害に対して十分に機
能せず,ましてや震災以前の低所得・失業・貧困問題には対応できない.
今回の大震災では,複合的な災害が複雑に交錯する一方で,震災以前か
ら社会が抱えていた問題と震災によって生じた問題が複雑に折り重なって
おり,復興までに長期間を必要とする.そのため生活保護による所得保障
が重要となるが,被災者が生活保護を利用するには様々な困難があるうえ
に,生活保護改革の議論は,震災前後を通じてワークフェア的な方向で進
展している.ワークフェアとは,就労可能な公的扶助受給者に労働を義務
付ける政策を意味する.他の支援が不十分であれば, CFWはうまく機能
できず,ワークフェア的なものに後退する可能性がある.
CFWとワークフェアは,福祉や支援への「依存」から脱却し就労を通
した「自立」を志向する点で同種の目的を有するとともに,労働能力が低
い者に対して十分な支援を提供できないという共通の問題を抱える.これ
に対して,生活保護による所得保障を拡充していくことこそが, CFWを
うまく機能させることにも繋がる重要な復興支援であり,また震災の前後
に一貫して福祉社会が抱える課題でもあるのだ.