山階鳥類学雑誌
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原著論文
湿性草原の環境変化に対する鳥類の応答:仏沼干拓地における1998年と2010年の比較
三上 修高橋 雅雄
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2013 年 44 巻 2 号 p. 67-78

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抄録

近年,日本国内において草原環境が失われ,そこに生息する鳥類の絶滅の危険性が高まっている。草原環境が開発によって失われる場合には,生息地が消失するので,その実態が把握しやすい。しかし,景観的には草原環境が維持されているが,質的に変化した場合の鳥類への影響についてはよくわかっていない。そこで,本研究では,青森県の仏沼干拓地において,1998年と2010年に植生環境と草原棲鳥類5種の分布を調査し,この間にどれくらいの環境変化があり,どれくらい鳥類に影響があったかを示した。その結果,ヨシの丈が本調査地全体で低下し(中央値で20 cmの低下),下層植生が丈,被度ともに高まっていた。この結果,下層植生が豊富な環境を好む,オオセッカ,オオジュリン,コジュリンの個体数はそれぞれ1.36倍,2.71倍,1.94倍に増え,一方,オオヨシキリ,コヨシキリは0.61倍,0.57倍と減少した。現在の環境は,1998年と比べて,希少種であるオオセッカやコジュリンにとって好適な環境になっていると考えられるが,この変化がさらに進めばこれらの種にとっても不適な環境になる可能性もある。なぜ環境変化が起きたかを明らかにし,場合によっては人為的な管理をすることも必要であろう。

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© 2013 公益財団法人 山階鳥類研究所
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