化学と生物
Online ISSN : 1883-6852
Print ISSN : 0453-073X
ISSN-L : 0453-073X
解説
単分子観察によって明らかにされた結晶性セルロース加水分解過程におけるセロビオヒドロラーゼの実力
五十嵐 圭日子鮫島 正浩
著者情報
ジャーナル フリー

2014 年 52 巻 4 号 p. 218-222

詳細
抄録

植物資源からの燃料や化成品生産を実現するためには,セルロースの効率的な分解が必須であると考えられているが,セルラーゼによるセルロースの加水分解速度は非常に遅く,セルロース系バイオマス変換プロセスのボトルネックとなっている.そこで筆者らは,プロセッシブなセルラーゼによる結晶性セルロースの分解メカニズムを明らかにするために,1秒未満の時間分解能およびナノメートルの空間分解能を有する高速原子間力顕微鏡を用いたセルラーゼの単分子観察を行ったところ,トリコデルマ菌由来セロビオヒドロラーゼIの分子が,結晶セルロースの表面に沿って一方向にスライドするように観察された.また,その動きは活性をなくした変異酵素では見られなかったことから,本酵素がセルロースを加水分解しながらプロセッシブに進んでいるというこれまでの生化学的な結果が,初めて分子レベルで証明された.個々の分子の動きは「動く」ステップと「止まる」ステップを繰り返していたが,時間とともにセルロース表面における酵素分子の渋滞が生じ,セルロースの分解速度が遅くなることが明らかとなった.

著者関連情報
© 2014 by Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
前の記事 次の記事
feedback
Top