2018 年 56 巻 3 号 p. 161-164
コレステロール合成はアセチルCoAを出発基質として,およそ30段階の酵素反応を介して行われる.こうして炭素数2の化合物から炭素数27の複雑な構造を有する化合物がヒト肝臓で1日1g程度合成されると推定されている.したがって,この合成経路を遮断することは体内コレステロール量を減少させるのに有効であり,そのような考えに基づき,合成経路の律速酵素HMG CoA還元酵素の阻害剤であるコンパクチンが遠藤らにより開発された.コレステロール合成は,最終産物であるコレステロールによるネガティブフィードバック制御による精緻な調節機構のもとに進行している.その一つの機構として,HMG CoA還元酵素をはじめとする合成に関与するすべての酵素の遺伝子発現はコレステロール量の増加に伴い,転写レベルで減少する.同時にHMG CoA還元酵素タンパク質は細胞内コレステロール量が増加すると,速やかに分解される.合成経路の律速酵素であるHMG CoA還元酵素はこの2つの制御を受ける唯一の酵素である.このように細胞内でコレステロール量を制御するシステムとして,HMG CoA還元酵素活性は精妙にコントロールされており,その制御機構の細胞生物学的解明にスタチンは極めて重要な役割を担ってきた.