開智国際大学紀要
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18 世紀ロンドンにおけるパントマイムと奴隷制度
―『ハーレクィン・マンゴー』の歴史的重要性―
安田 比呂志
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2017 年 16 巻 p. 87-103

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抄録

1780年代後半のロンドンでは、黒人奴隷を主人公とし、当時の奴隷制度に対する批判と見なし得る内容を含む2作の演劇作品が上演された。ウィリアム・ベイツ作のパントマイム『ハーレクィン・マンゴー』(1787)と、トマス・ベラミー作の散文劇『友人たち、または慈悲深い植民者たち』(1789)である。1772年の有名なサマーセット判決の後、奴隷制度廃止に向けた運動が具体的な形を取り始めていた当時の時代的な文脈を考えると、これらの作品の上演は時宜を得たものであるように思われる。ところが、『ハーレクィン・マンゴー』が興行的な大成功をおさめている一方で、『友人たち』は大失敗に終わっているのである。本論は、同じテーマを扱うこれら 2作品の上演が、このように正反対の結果に終わった理由を、パントマイムと散文劇というジャンルの違いにあると考え、最初に、18世紀後半のロンドンで見られた奴隷制度を取り巻く様々な状況を簡潔にまとめながら、その中に『友人たち』を位置づけることにより、この散文劇が失敗に終わった必然性を明らかにする。次に、『ハーレクィン・マンゴー』に描き出されている奴隷制度に関わる種々の様相を、当時の黒人問題や奴隷制度にまつわるいくつかの議論との関連で検証する。そして最後に、この作品のハーレクィネードとしての特徴やその効果について検証することにより、『ハーレクィン・マンゴー』の、そしてパントマイムという演劇形式の性質や独自性の様相を明らかにする。以上の検証を通して、散文劇では不可能であった奴隷制度批判がパントマイムでは可能であった理由を明らかにするとともに、このパントマイムが担い得ていた歴史的重要性をも明らかにする。

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