大学改革・学位研究
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論文
政府による競争的資金配分が生み出した国立大学の種別化
―自主性と現実の狭間で―
原田 健太郎島 一則
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2024 年 26 巻 p. 15-29

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要旨

2000年代以降に拡大した競争的資金は,個人を対象とするものから大学を単位とするものまで多様化している。その目的も,研究を支援するものから,グローバル化や教育力の向上,更には地域貢献機能の強化といった形で同じく多様化している。

本稿では,これらの政府からの競争的資金の配分結果(現実)を通じて,政府により各国立大学の「自主性」のもとでの機能分化という形で,実質的な種別化を推し進められたプロセスについて検討する。すなわち,競争的資金の公募に採択される(もしくは採択されない)ことを通して,各大学が自大学の機能や役割についての自己学習とそれに基づく自己規定を行い,その結果として大学の機能分化が「自主的に」進行するとともに,2010年代には大きな抵抗もなく,実質的な国立大学の種別化が進められたプロセスを明らかにする。

Abstract

Since the 2000s, competitive funding has expanded and diversified from targeting individuals to supporting universities. Its mission has also shifted from supporting research to bolstering the functions of universities, enhancing their educational capabilities, and strengthening their regional contributions. In this regard, the selection of a university for government competitive funding can be interpreted as an indication of the government’s recognition of the selected university’s mission. In other words, competitive funding allocation involves the message from the government to national universities. Thus, this study examines how the government’s allocation of competitive funding has fostered differentiation through its function and visualization in national universities.

1. 研究の背景と目的

大学は,設置者,大学の規模,予算,研究生産性等に差異があり,極めて多様な組織体である。本稿で分析対象とする国立大学においても,様々な点で大学間に差異があり,(その一部は格差とも表現しうるもので),大学間でその果たす機能の程度が異なっているのは厳然たる事実である。一方で,国立大学に限らず,日本の大学においては,大学群をその機能に基づいて,種別化することには大きな抵抗があった1。例えば,2017年度より開始された専門職大学制度であるが,職業教育に特化した教育という点で,「従来型」の大学と区分されることになる。その一方で,従来の大学群を「職業型」と「非職業型」に分類することはできず,その結果として,専門職大学という新たな制度の導入が行われることとなったのである。このような事実からも明らかなように,日本の「大学」には,大学を種別化することに対して大きな抵抗があったと考えられる。

そのような中で,国立大学の法人評価の文脈においてではあるが,国立大学を「国際型」,「分野型」,「地域型」の三つに分類する取り組みが行われた(文部科学省,2015)。この取り組みにおいて,各国立大学は上記の三つの型から一つを選択することとなっており,その選択結果は公開されている。それでは,何故国立大学において,各大学による選択という形をとっているにしても,上記のように国立大学を複数の種類のカテゴリーに分類する実質的な種別化が大きな反発もなくなされたのであろうか。そこには様々な要因が考えらえるが,本稿ではそれを「競争的資金への採択/不採択の履歴」に求めることとする。すなわち競争的資金への採択と不採択という情報を踏まえて,各大学は自大学に期待される「機能」について学習し,そのように自己規定をし直すことによって実質的な種別化へ至る道を自ら「自主的に」選びとることとなったというものである。

なお,本稿では,2000年代を境に大幅に拡大した競争的資金を扱う。それらは,個々の研究者に配分する科学研究費補助金等だけでなく,学部・研究科や研究所,大学等を単位に配布するものまで,実に多様化し,現在に至っている。

1  本稿では,種別化,機能分化,実質的「種別化」を下記のように定義している。種別化とは,政府によって行われるもので,政府によって大学をいくつかのグループに分類したうえで,各グループの機能を政府が決定するものである。1960年代から1970年代に目指された政策(具体的には,中央教育審議会答申の「大学教育の改善について(1963年)」,「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について(1971年)」で提案されている)であるが,達成には至らなかった。次に,機能分化とは,大学によって行われるもので,個々の大学が自らの判断で自大学の機能を分化させていき,その結果として,大学群がいくつかのグループに分かれることを指す。1990年頃から目指された政策(具体的には大学審議会答申の「21世紀の大学像(1998年)」及び中央教育審議会答申の「我が国の高等教育の将来像(2005年)」で提案されている)であり,現在進行形で機能分化は生じている。最後に,実質的「種別化」については,本稿で独自に用いた概念で,政府による誘導政策を通して,各大学の「自主的」判断の名のもとで,個々の大学を政府の意図する形で種別化する過程としている。

2. 先行研究の整理と課題の設定

はじめに国立大学の種別化とその後の機能分化に関わる政策の歴史的概略を天野(2006)に基づいて紹介する。そのうえでこれらに関わる国立大学の機能やそれを支える財務面に関わる実証分析,さらにはそれらの機能についての自大学認識に関する先行研究を整理したうえで,本稿の課題について述べる。

天野(2006)に基づけば,現在の機能分化と強く関係しているのが,1963年に出された中央教育審議会の答申である「大学教育の改善について」(いわゆる三八答申)であり,そこでは大学を2種類に分けた種別化構想(大学院大学と大学)が提示されている。その後,1971年に出された中央教育審議会の答申である「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」(いわゆる四六答申)において種別化構想はさらに発展し,3種類の種別化案(研究院,大学院,大学)が提示されることとなる。しかしながら,「既存の大学を種別化の方向で大幅に改革し,国立大学の内部で種別化を積極的に推し進める」ことはなかったとされている(天野,2006 p. 201)。その後,こうした種別化構想に変化が生じることとなる。すなわち大学審議会が1998年に出した答申の「21世紀の大学像」において,大学の多様化・個性化宣言が発せられているが,ここには政府が行う種別化構想からの変更が生じており,大学はそれぞれの理念に基づき,それぞれの大学が目指す方向の中で多様化・個性化を図りつつ発展していくことが重要であると指摘しているのである。すなわち大学自身で,その方向性を決定することが重要であると述べられている。その後,中央教育審議会が2005年に出した答申の「我が国の高等教育の将来像」においては,大学の機能分化として七つの機能を提示するとともに2天野,2006 p. 206),「きめ細やかなファンディング・システム」を通して,大学の判断に基づく選択的多様化・個性化の推進が企図された。このように高等教育政策において,大学の種別化にはじまり,それに変化が加えられた機能分化が半世紀以上にわたって推奨されてきたことが分かる。

次に以上に関わる,そもそもの国立大学の機能やそれを支える財務実態について着目すると,機能,財務状況,人的資源まで実に多岐に渡る事項で,厳然たる差異があることが先行研究によって明らかにされてきたことがわかる(研究群I)。天野(1968)による大学院の設置状況に基づく大学間の差異の検討に端を発し,大学分類に基づく教育機能や入学状況の差異の検討が行われてきた3天野,1984)。その後の研究としては,小林(2002)においては,改めて教育機能の差異が検証されるとともに,決算額や外部資金の獲得状況も踏まえて国立大学の格差構造が明らかにされている。また吉田(2002)は,歴史的経緯と当時の学部構成を踏まえて国立大学の分類を行うとともに,各分類を構成する大学群が有する教育機能や研究機能の差異に加えて,地域交流機能の差異の検討を行っている。そして,島(2009a2009b2009c)においては,研究機能,教育機能に加えて大学開放機能までも網羅する形で,より多様な指標を取り上げて国立大学間の差異と格差の構造が明らかにされてきた。

その後,国立大学の法人化を経て,各大学の詳細な財務情報が公開されることになるが,それらの情報を用いて,大学間での財務状況の差異も明らかにされるようになっている(山本,2006)。財務状況の分析については,法人化以降の競争的資金の拡大や病院収入の拡大等の事象を踏まえて,改めて財務状況の格差構造が明らかにされることになる(島,2012)。近年では大学間での財務状況の格差構造とその拡大を,競争的資金の獲得状況の差異から検討することに加えて(藤村,2022),法人化が教育・研究という大学の機能に与えた影響を財務面から検討し,そこに大学間の差異が見られることも明らかにされている(水田,2018)。

このように,教育や研究の機能に関わることから,それを支える財務状況に至るまで,実に多岐に渡る点で,国立大学間の「差異」が明らかにされてきたことが分かる。

また,厳然として存在する大学間での機能の差異とは別に,自大学が果たしている機能についての認識に見られる差異を読み取ろうとする研究も見られる(研究群II)。そのための一つ目の方法は,アンケート調査に基づく,認識の差異の検討である。村澤・葛城(2007)においては,全国の学長や学部長等を対象に,自大学が果たしている機能や今後果たすべき機能と既存の大学分類の関係から整理を行い,その「ずれ」についての検討を行っている。二つ目の方法は,各大学が作成した文書から,個々の大学の機能に関わる認識を把握する試みがあげられる。島(2022)では,中期目標・中期計画の「前文」に着目し,その中で,世界的研究・教育拠点を志向する語が含まれているかどうかの検討を行った上で,世界・アジア大学ランキングの状況等と比較して,世界的研究・教育拠点としての自大学認識が抑制的となっていることを指摘している。最後に本稿で用いるアプローチを使用した研究群として,競争的資金への申請や採択状況から,各大学に期待されている機能を明らかにするものがあげられる(研究群III)。島(2016)では,政府からの競争的資金の採択結果が,既存の大学分類と強い対応関係を示していることを明らかにした。原田(2017)においては,競争的資金の「申請」の状況から,各国立大学が目指している機能の検討を行い,一部の研究大学は,その機能を明確化している一方で,地方に設置されている総合・複合大学において,それが「実質的」な種別化と言える状況までには至っていないことを示している。小入羽(2016)では,競争的資金の申請の情報に加えて,採択の情報も用いて,各大学が希望する機能と政府が個々の大学に期待する機能について,設置形態間での差異を明らかにしている。そして,国立大学はそもそも競争的資金への関心が強いが,地域貢献の機能強化については公立大学の関心が強いことを明らかにしている。

本稿では,これらの先行研究を踏まえつつ,主として研究群IIIの延長上において,扱う競争的資金を拡大させるのに加えて,実質的な種別化として位置づけられる,前述した「三つの型」の選択過程までを分析対象に加える。そして,「政府の国立大学に対する役割期待声明」とも考えうる競争的資金の採否という形のメッセージの交換が行われたことで,一部の国立大学の自大学認識の冷却化などが生じたことにより,実質的な種別化が大きな混乱のないまま行い得たプロセスをクロス表分析とロジスティック回帰分析を用いて明らかにすることとしたい。

2  「我が国の高等教育の将来像(答申)」で提示された七つの機能は以下の通りである。①世界的研究・教育拠点,②高度専門職業人養成,③幅広い職業人養成,④総合的教養教育,⑤特定の専門的分野(芸術・体育等)の教育・研究,⑥地域の生涯学習機会の拠点,⑦社会貢献機能(地域貢献,産学官連携,国際交流等)

3  本研究に関して,研究の対象は,国立大学に加えて,公立大学と私立大学も含まれている。

3. データと分析方法

3.1 データ

本稿で扱うのは,大学分類に関する情報と競争的資金への採択に関する情報である。大学分類の情報については,島(2011)の結果を活用している。表1はその結果である。島(2011)は,吉田分類4 を基盤にしつつ,その後の大学統合等への配慮もなされている。たしかに,これ以降に生じた一法人複数大学の設置といった変化を扱っていないものの,本稿で扱う時期については,島(2011)の分類で対応可能となっている5

表1 大学分類と大学名

大学分類大学名
総合・旧帝大北海道大学東北大学東京大学名古屋大学京都大学大阪大学九州大学
総合・旧官大〔文・理〕筑波大学神戸大学広島大学
総合・旧官大〔医あり〕千葉大学新潟大学金沢大学岡山大学長崎大学熊本大学
総合・新制大〔医あり〕群馬大学信州大学富山大学岐阜大学島根大学山口大学香川大学
愛媛大学佐賀大学大分大学鹿児島大学琉球大学
複合・新制大〔医あり〕弘前大学秋田大学山形大学福井大学山梨大学三重大学鳥取大学
徳島大学高知大学宮崎大学
複合・新制大〔医なし〕岩手大学福島大学茨城大学宇都宮大学埼玉大学横浜国立大学静岡大学
滋賀大学和歌山大学
単科・旧官大東京医科歯科大学東京工業大学一橋大学
単科・旧女高師お茶の水女子大学奈良女子大学
単科・旧専門〔文〕小樽商科大学東京外国語大学東京芸術大学
単科・旧専門〔教〕北海道教育大学宮城教育大学東京学芸大学愛知教育大学京都教育大学大阪教育大学奈良教育大学
福岡教育大学
単科・旧専門〔工〕室蘭工業大学東京農工大学電気通信大学名古屋工業大学京都工芸繊維大学九州工業大学
単科・旧専門〔農・海〕帯広畜産大学東京海洋大学
単科・新設大〔医〕旭川医科大学浜松医科大学滋賀医科大学
単科・新設大〔教〕上越教育大学兵庫教育大学鳴門教育大学鹿屋体育大学
単科・新設大〔工〕北見工業大学長岡技術科学大学豊橋技術科学大学筑波技術大学
単科・大学院大学政策研究大学院大学北陸研究大学院大学奈良先端研究大学院大総合研究大学院大学

次に,競争的資金への採択に関する情報としては,各公募のHP上の情報からその結果をデータ化している。表2が本稿で扱う競争的資金の概要である6

表2 競争的資金の概要

競争的資金略称申請情報採択情報
21世紀COEプログラムCOE×
研究大学強化促進事業研究強化×
知(地)の拠点整備事業COC
スーパーグローバル大学創成支援事業SGU
大学教育再生加速プログラムAP

なお,本稿で扱う競争的資金の第一段階選択の条件としては,文部科学省の「大学教育再生戦略推進費」であることとした。同推進費は,「中央教育審議会等で提言された政策課題に特化した誘導型の補助金」であると記載されている(文部科学省,2022)。その実態としては,デジタル化や復興支援等のテーマ設定型がある一方で,大学全体の教育や研究の改善に資するものまであり,実に多様である。本稿では,これらのうち学部・研究科や大学等への総合的な支援を目的とした競争的資金で,大学の在り方そのものを規定する競争的資金を分析対象として設定している。

最後に,実質的種別化の到達点としては,国立大学の法人評価において,第3期中期目標期間における運営費交付金の配分のために作成された予算配分の枠組みを活用する(文部科学省,2015)。文部科学省は,第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会を設置し,「第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方について(審議まとめ)」を公表し,「機能強化の方向性に応じた重点配分の枠組み」という方式での支援を開始した。支援の枠組みを表3に示している。各大学は,自大学の機能強化の方向性を上記の重点支援①から重点支援③の中から選択することになる。選択結果を踏まえて,各グループ内での評価がなされることになる。本稿では,それぞれを「地域型」「分野型」「国際型」と標記することにする。

表3 支援3類型の概要

重点支援①主として,地域に貢献する取組とともに,専門分野の特性に配慮しつつ,強み・特色のある分野で世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援地域型
重点支援②主として,専門分野の特性に配慮しつつ,強み・特色のある分野で地域というより世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援分野型
重点支援③主として,卓越した成果を創出している海外大学と伍して,全学的に卓越した教育研究,社会実装を推進する取組を中核とする国立大学を支援国際型

注)文部科学省(2015)をもとに筆者作成

4  大学分類は,「いくつかの数量的データから国立大学を類型化し」たものである(吉田,2002)。吉田分類では,旧制度下における学校種別の違いという歴史的経緯と現在の学部構成から国立大学を分類している。学部構成としては,「総合大学は,人文・社会・自然・医の4領域すべての学部をもつ大学,複合大学はこの4領域のうち2ないしは3領域を満たす大学,単科大学は1領域からなる大学」とある。

5  本稿が分析対象とした時期を経て,国立大学において大学再編が大幅に行われている。一法人複数大学が複数設置されるとともに,2024年には東京工業大学と東京医科歯科大学の統合が予定されている。これらの変化に対応した新たな大学分類の作成が期待される。

6  本稿では紙幅の関係から,他の競争的資金についての詳細な検討は行えていない。例えば,21世紀COEプログラムより前に始まった教育GPについては,国立大学の46.5%が採択されている。また,21世紀COEプログラムの後に公募が開始されたグローバルCOEプログラムの国立大学の採択率は32.6%となっている。これらの競争的資金についても,確かに一部の大学群が採択されやすい傾向はあるものの,2010年代のような一部の大学群が競争的資金を独占する状況ではなく,幅広い配分がなされている。このことからも分かるように,徐々に競争的資金が一部の大学群に重点的に配分されるようになったことが分かる。

3.2 分析方法

本稿では初めに,大学分類と競争的資金への採択状況に関するクロス表分析を行う。この分析から,大学の基本的な特徴を反映させて作成した大学分類と競争的資金への採択がどの程度関係しているかを明らかにする。次に競争的資金への採択と前述した「支援3類型」がどの程度関係しているかを明らかにする。これらの分析を通して,各競争的資金の採択/不採択が各大学にとってどのような意味を有していたのか,大学は何を「学習」したのか検討する7,8

最後に,単科大学を除く総合・複合大学を対象に,本稿で扱う競争的資金への採択/不採択の情報が,「支援3類型」の選択に対する要因となっていたのか,どの程度それらで説明が可能であるかについて,ロジスティック回帰分析を用いて検討する。

7  本稿では,各大学分類の採択率については申請した大学数ではなく,大学分類の大学数で除した値を採用している。これは,全ての競争的資金において,申請した大学名がウェブサイト上に公表されているわけではないためである。今回扱った競争的資金の中では,21世紀COEプログラムと研究大学強化促進事業については,ウェブサイト上で完全な形で申請大学名が公表されていなかった。ただし,申請状況も含めた分析は重要である。近年,国の情報公開制度を利用して収集したデータを活用した研究が見られるようになっており,そのような観点からの情報収集が今後期待される。

8  なお実際は,採択されていないことと不採択であること(競争的資金に申請したが採択されなかった)はイコールではないが,本稿では一貫して採択/不採択という表現で統一する。

4. 競争的資金配分と国立大学の機能分化

4.1 大学分類別の競争的資金採否・大学3類型選択の状況:クロス表分析

4.1.1 21世紀COEプログラム

21世紀COEプログラムは,2002年から開始されたものであり,世界トップレベルの大学と伍して教育及び研究活動を行っていくために,世界最高水準の研究教育拠点を形成することを目指して,その拠点に重点的な支援を行うものであるとされている(日本学術振興会,2008)。

表4は,COEについて,大学分類とCOEに採択された大学との関係を示したものである。なお,単純化のため単科大学については,「単科・旧専門」と「単科・新設大」に統合した形で集計している。

表4 COE の採択状況

大学分類採択不採択採択率
総合・旧帝大70100.0%
総合・旧官大〔文・理〕30100.0%
総合・旧官大〔医あり〕60100.0%
総合・新制大〔医あり〕7558.3%
複合・新制大〔医あり〕6460.0%
複合・新制大〔医なし〕3633.3%
単科・旧官大30100.0%
単科・旧専門71433.3%
単科・新設大3827.3%
単科・大学院大学3175.0%

初めに,注目すべきは,戦前からの大学としての歴史をくむ大学(総合・旧帝大,総合・旧官大〔文・理〕,総合・旧官大〔医あり〕,単科・旧官大)は,総合大学・単科大学に限らず,全て採択されているということである。次に着目すべきは,新制の大学であっても,総合大学,複合大学は全体の5割程度が採択されているが,単科大学の採択率はそれよりも相対的に低いことが分かる。ただし,単科・大学院大学の採択率は単科・旧官大についで単科大学の中で高くなっている。このように,21世紀COEプログラムの段階で,大学分類に基づけば,歴史が古く,総合・複合大学が採択されやすいという傾向があるものの,全ての大学分類において採択大学が存在しており,総じて高い採択率にあることが確認された(55.8%)。

なお,COEプログラムは,研究科や研究所等を単位として申請を行い,採択されればその単位で事業を行う競争的資金であった。この点は,後述する競争的資金が大学単位で申請を行い,採択されれば全学で事業を行うという点で,意味合いが異なる。新制大学や単科大学の中にも,強みのある研究科や全国的にも特徴的な研究所を有していることがあり,それらの部局にCOEの予算が配分されていたことも上記のような結果の要因の一つといえる。

4.1.2 研究大学強化促進事業

2010年代においては,大学改革実行プランを経て,大学を単位とする競争的資金が本格的に開始される。同時に,研究力強化だけでなく,地域貢献機能の強化や国際的に活躍できる大学への変貌等を期待する競争的資金も加わる。

そこで初めに,2013年より開始された研究大学強化促進事業を検討する。同プログラムは,「世界水準の優れた研究活動を行う大学群の増強を目的に,文科省が毎年2~4億円を選定大学に10年間配分するもの」であった(島,2016)。表5は,研究大学強化促進事業について,大学分類とそれへの採択がなされた大学との関係を示したものである。

表5 研究大学強化促進事業の採択状況

大学分類採択不採択採択率
総合・旧帝大70100.0%
総合・旧官大〔文・理〕30100.0%
総合・旧官大〔医あり〕2433.3%
総合・新制大〔医あり〕0120.0%
複合・新制大〔医あり〕0100.0%
複合・新制大〔医なし〕090.0%
単科・旧官大1233.3%
単科・旧専門1204.8%
単科・新設大1109.1%
単科・大学院大学1325.0%

初めに,本事業でも,総合・旧帝大,総合・旧官大〔文・理〕は全ての大学が採択されている。そして,総合大学の中では,総合・旧官大〔医あり〕において,採択されたものとそうでないものがある一方で,総合・新制大〔医あり〕においては採択大学が一つもなく,複合大学も同様に採択された大学が一つもないことがあげられる。こうした点がCOEとは大きく異なる点となっている。また,単科大学についても採択大学が大きく絞られており,歴史のある東京工業大学(単科・旧官大)が採択されているのに加えて,電気通信大学(単科・旧専門〔工〕),豊橋技術科学大学(単科・新設大〔工〕),奈良先端科学技術大学院大学(単科・大学院大学)が採択されており,工科系の単科大学のみが採択されていることがわかる。結果として,COEと比べれば,全体的に採択率が下がり,19.8%となっていることが明らかになった。

4.1.3 スーパーグローバル大学創成支援事業

研究大学強化促進事業の公募を経て,新たに募集が開始されたのが,スーパーグローバル大学創成支援事業である。同事業は,「研究と教育におけるグローバリゼーションを進めつつ世界クラスの大学を支援するため,タイプAの大学(13大学:うち国立大学は11大学・84.6%)に関しては,10年間毎年4.2億円の資金配分を行う。また,タイプBの大学(24大学:うち国立大学は10大学・41.7%)については,グローバル化促進のために文科省は10年間毎年1.72億円の資金配分を行う」ものであった(島,2016)。このようにSGUの特徴としては,タイプAとタイプBの二つのタイプでの公募が準備されていたことがあげられる。タイプAは「トップ型」と位置づけられ,「世界大学ランキングトップ100を目指す力のある,世界レベルの教育研究を行うトップ大学を対象」としている(文部科学省,2014)。一方のタイプBは,「これまでの実績を基に更に先導的試行に挑戦し,我が国の社会のグローバル化をけん引する大学を対象と」するとある(文部科学省,2014)。このように,グローバル化を基盤にした二つの公募が準備されている。そこで,タイプAとタイプB,それぞれに検討を行うことにする。表6は,SGUのタイプAに採択された大学と大学分類との関係を示したものである。

表6 SGU(タイプ A)の採択状況

大学分類採択不採択採択率
総合・旧帝大70100.0%
総合・旧官大〔文・理〕2166.7%
総合・旧官大〔医あり〕060.0%
総合・新制大〔医あり〕0120.0%
複合・新制大〔医あり〕0100.0%
複合・新制大〔医なし〕090.0%
単科・旧官大2166.7%
単科・旧専門0210.0%
単科・新設大0110.0%
単科・大学院大学040.0%

採択された大学は,総合・旧帝大及び総合・旧官大〔文・理〕に加えて,単科・旧官大のみとなっている。すなわち,他の大学群は全く採択されておらず,全体的な採択率は12.8%に留まる。こうした結果,COE→研究大学強化促進事業→スーパーグローバル大学創成支援事業(タイプA)に至るプロセスで,採択される大学がより限定されるに至っている。ただし,この3つの事業においては総合・旧帝大はすべて選ばれ続けていることがわかる。

表7は,SGUのタイプBの採択の状況と大学分類の関係を示したものである。

表7 SGU(タイプ B)の採択状況

大学分類採択不採択採択率
総合・旧帝大070.0%
総合・旧官大〔文・理〕030.0%
総合・旧官大〔医あり〕4266.7%
総合・新制大〔医あり〕0120.0%
複合・新制大〔医あり〕0100.0%
複合・新制大〔医なし〕090.0%
単科・旧官大030.0%
単科・旧専門31814.3%
単科・新設大2918.2%
単科・大学院大学1325.0%

初めに,総合・複合大学に着目すると,タイプAに採択された大学を除くと,採択大学が出ているのは,総合・旧官大〔医あり〕のみとなっている。ただし,同類型においても採択されない大学もある。その一方で,その他の総合・複合大学に着目すると,一大学も採択されていないことがわかる。このことは研究大学強化促進事業と軌を一にしている。

次に,単科大学に着目すると,大学分類横断的に採択されていることが分かる。採択された大学は,関東圏の文科系単科有力大学(東京外国語大学,東京芸術大学)と,工科系の単科大学(京都工芸繊維大学,長岡技術科学大学,豊橋技術科学大学,奈良先端科学技術大学院大学)となっている。ただし,単科・旧専門,単科・新設大,単科・大学院大学の採択率は高くなく,全体の採択率も11.8%となっている。前述のスーパーグローバル大学創成支援事業(タイプA)と合算した場合の採択率は24.4%となっており,研究大学強化促進事業よりも採択大学は若干増えているが,COEと比較して採択される大学の数がかなり少なくなっていることが分かる。

このように,SGUへの採択もまた一部の大学に限られていたことが分かる。そして,一部の大学への資源配分は,二つの効果があったことが考えられる。採択され続けた一部の大学は,自大学の役割として,研究力強化やグローバル化こそが自大学の機能であるという志向を「加熱」させることにつながったのであろう。それが,その後の「国際型」への選択につながったと考えられうる。一方で,採択されなくなった大学にとって,採択されないという状況が,自大学の役割が研究力強化やグローバル化と考えることを徐々に「冷却」させられることにつながったと考えられる。これらの競争的資金に採択されないという結果もまた,採択されるのとは異なる形で,そこに政府からのメッセージを読み取った可能性が指摘されなければならない。

4.1.4 地(知)の拠点整備事業

ここまでは,大学の「研究」と「グローバル化」に関する競争的資金の検討を行ってきた。2010年代に入ると,新たな競争的資金として,地域貢献や地域振興を目的とした資金配分も開始されている。そこで,そのような競争的資金の始まりであり,大学を単位として採択校が選ばれた「地(知)の拠点整備事業(COC)」に着目して,大学分類での検討を行う。COCは,2013年より開始されたもので,「地域貢献する大学をサポートするために,文科省は5年間1.2億円を上限として毎年配分する。2013年については51大学が採択され,そのうち国立大学は22大学・43.1%となっている」とある(島,2016)。

表8は,COCに採択された大学数を大学分類ごとに示したものである。まず初めに総合・複合大学に着目すると,総合・旧帝大については一大学のみの採択となっており,総合・旧官大〔文・理〕の採択も一大学に留まる。その一方で,総合・旧官大〔医あり〕,総合・新制大〔医あり〕,複合・新制大〔医あり〕の順で採択率が高くなっている。加えて,これまで研究大学強化促進事業やスーパーグローバル大学創成支援事業において採択のなかった複合・新制大〔医あり〕,総合・新制大〔医あり〕の採択が多くなされている。

表8 COC の採択状況

大学分類採択不採択採択率
総合・旧帝大1614.3%
総合・旧官大〔文・理〕1233.3%
総合・旧官大〔医あり〕3350.0%
総合・新制大〔医あり〕8466.7%
複合・新制大〔医あり〕8280.0%
複合・新制大〔医なし〕4544.4%
単科・旧官大030.0%
単科・旧専門31814.3%
単科・新設大0110.0%
単科・大学院大学040.0%

一方,単科大学についてみた場合,単科・旧専門のみの採択となっているものの,採択率は決して高くないことが分かる。このことは地域貢献や地域振興において,研究大学強化促進事業やスーパーグローバル大学創成支援事業に採択されていない総合・新制大〔医あり〕,複合・新制大〔医あり〕,複合・新制大〔医なし〕等において,その事業に対する期待があり,総合・旧官大〔医あり〕についても,こうした役割期待が一部なされていることが分かる。

COCについては,採択率は32.6%であり,研究大学強化促進事業やスーパーグローバル大学創成支援事業と比べて採択率が高い。これらの結果から,COCへの採択は一部の総合・複合大学にとって自大学が「地域貢献や地域振興」を期待されている大学であることを学習する機会を果たしたと考えられうる。

4.1.5 大学教育再生加速プログラム

最後に,「大学教育再生加速プログラム(AP)」の検討を行う。表9は,APに採択された大学数を大学分類ごとに示したものである。APは,「2014年から,先端的な教育改革に取り組む大学をサポートするために,文科省は1800万円~5600万円を選定大学に5年間資金配分する。39大学が採択され,そのうち国立大学は11大学・28.2%」であった(島,2016)。

表9 AP の採択状況

大学分類採択不採択採択率
総合・旧帝大070.0%
総合・旧官大〔文・理〕1233.3%
総合・旧官大〔医あり〕5183.3%
総合・新制大〔医あり〕21016.7%
複合・新制大〔医あり〕3730.0%
複合・新制大〔医なし〕3633.3%
単科・旧官大030.0%
単科・旧専門41719.0%
単科・新設大1109.1%
単科・大学院大学040.0%

初めに,総合・複合大学を見てみると,総合・旧帝大は採択されていない。一方で,旧官大〔医あり〕の採択率が最も高い(83.3%)ことが指摘できる。また,これに次いでいるのが,総合・旧官大〔文・理〕と複合・新制大〔医なし〕となっている。この他にも,総合・旧帝大を除く全ての総合・複合大学で採択がなされていることが分かる。

次に,単科大学に着目すると,単科・旧専門,単科・新設大のみでの採択となっており,単科大学の中での採択の割合も広がりも大きくない。全体の採択率は22.1%となっており,必ずしも高い採択率ではないことが分かる。

4.1.6 支援3類型

表10は大学分類別に支援3類型への選択状況を示したものである。まず,総合・複合大学についてみてみると,総合・旧帝大と総合・旧官大〔文・理〕は全て国際型を選択していることがわかる。一方で,総合・新制大〔医あり〕,複合・新制大〔医あり〕,複合・新制大〔医なし〕については全て地域型を選択していることが分かる。そして,両者の間に位置する総合・旧官大〔医あり〕は半分が国際型,残りの半分が地域型となっていることがわかる。ここから明確に言えることは,これらの分類は,ほぼ旧来の国立大学の序列構造をそのまま反映した形となっている。

表10 大学分類別の支援3類型の選択状況

大学分類地域型分野型国際型合 計
総合・旧帝大0077
総合・旧官大〔文・理〕0033
総合・旧官大〔医あり〕3036
総合・新制大〔医あり〕120012
複合・新制大〔医あり〕100010
複合・新制大〔医なし〕9009
総合・複合大学(合計)3401347
単科・旧官大0123
単科・旧専門128121
単科・新設大92011
単科・大学院大学0404
単科大学(合計)2115339
総計55151686

一方で,単科大学については,国際型に分類されているのは,単科・旧官大の2大学と単科・旧専門の1大学に留まる。そして,その他の大学は地域型21大学,分野型15大学となっている。このように考えると,単科大学において国際型を選定した大学は極めて限られていることが分かる。そこで,以上に見てきた競争的資金の配分と支援3類型との関係について次節で検討する。

4.2 競争的資金配分と国立大学の実質的種別化:ロジスティック回帰分析

最後に,総合大学と複合大学に焦点を当て,ロジスティック回帰分析を通して,これらの大学における国際型と地域型への選択が,競争的資金の採択/不採択という結果とどの様な関係にあり,またどの程度の説明ができるかを検証する。

なお,以下の分析においては,単科大学を分析から除外する。その主たる理由としては,本稿で扱った競争的資金への採択について,一部の大学を除いて極めて採択が限定的であるためであり,結果として,採択が支援3類型への選択に影響したかどうかを捉えることが難しいためである。もう一つの理由としては,採択された大学が少ないことで,後述する「ゼロます」の問題が発生しやすくなり,結果としてロジスティック回帰分析がそもそも実施できない点もあげられる。

また,総合大学と複合大学については,支援3類型の選択において,全ての大学が「地域型」もしくは「国際型」のみを選択しており,「分野型」の選択を行っていない点は留意されたい。

はじめに,ロジスティック回帰分析を実施する前提として,競争的資金と支援3類型(ただし,ここでは,「地域型」と「国際型」のみが扱われている)との関係に関わる情報を整理したのが,表11である。それぞれ,クロス表に関わるゼロますの有無,カイ二乗検定の結果(5%水準),ケンドールのτの値についてそれぞれ示したものである。

表11 競争的資金と支援 3 類型の関係性

ゼロますカイ二乗ケンドールτロジスティック回帰
COEあり有意0.423
研究強化なし有意0.838有意
SGUなし有意0.894有意
COCなしnot-0.278not
APなしnot0.013not

はじめに,ゼロますの有無を確認した。その理由としては,ロジスティック回帰分析の前提を満たしているかを検討するためである。ロジスティック回帰分析は,二値の確率の値を基にパラメーターを推計する統計分析モデルである。そのため,端的に言えば,クロス表を作成した時に,セルが0となるますが存在する場合は推計が困難になる9。集計結果を見ると,COEについてはゼロますが存在していることから,分析対象から除外することとする10

次に,カイ二乗の検定を行った上で,順位相関係数であるケンドールのτの値を算出した11。ここから明らかになることとして,COE~SGUまでは支援3類型と有意な関係があり,特に研究大学強化促進事業やスーパーグローバル大学創成支援事業と支援3類型との間には強い正の相関があることが明らかになった。逆にCOCについては有意ではないものの負の相関があることが明らかになった。

以上の結果を踏まえて,ロジスティック回帰分析を行うこととする。具体的には,COEを除いた4つの競争的資金を説明変数として設定した。各説明変数については,採択校を1,不採択校を0とするダミー変数を採用している。それぞれ一変数ずつモデルに加えた形でのロジスティック回帰分析を行っている(モデル1からモデル4)。それらの分析結果を踏まえて,単独で5%水準で有意であった変数を全て投入した形での分析も行った(モデル5)。被説明変数は,支援3類型で,国際型を選択した大学を1,地域型を選択した大学を0と設定している。

表12はロジスティック回帰分析の結果を示したものである。モデル1は,研究大学強化促進事業の採択を説明変数に設定したモデルである。同事業に採択された大学と,採択されていない大学のオッズ比は181倍となる。併せて,モデルの説明力であるNagelkerkeのR2 乗値を見ると,73%となっている。モデル2は,SGUへの採択を説明変数に設定したモデルである。研究大学強化促進事業と同様に,変数の説明力は極めて高く,本事業に採択された大学と採択されていない大学のオッズ比は396倍となる。併せて,モデルの説明力も81%と高い値になっている。このことから,これらの事業に採択されれば,その後,「国際型」を選択する確率が相当数高まり,かつかなりの程度「国際型」の選択に関する説明ができるということになる。次に,モデル3はCOCへの採択を説明変数に設定したモデルである。ここで興味深いことは,COCの採択に関する変数は5%水準で有意ではないということである。併せて,その説明力は10%であり,説明力が低くなっている。つまり,COCに採択されたからといって,国際型を選択しないということにはならないことになる。モデル4は,APへの採択を説明変数に設定したものである。COC同様に変数は有意ではなく,説明力も極めて低い。COC同様に,本事業への採択とその後の選択に関係性は見いだせない。最後のモデル5は,研究大学強化促進事業とSGUの二つの変数を投入したモデルである。後者が有意となり,前者は5%水準では有意とならないが,10%水準では有意といった形になる。これは両説明変数の相関が極めて高いためである。

表12 ロジスティック回帰分析の結果

モデル1
(N=47)
モデル2
(N=47)
モデル3
(N=47)
モデル4
(N=47)
モデル5
(N=47)
BExp(B)BExp(B)BExp(B)BExp(B)BExp(B)
研究強化5.201181.500***2.96919.474
SGU5.981396.000***4.44284.925**
COC-1.2910.275
AP0.0651.067
定数-2.8030.061***-3.4970.030**-0.3680.692-0.9810.375-3.8280.022**
Nagelkerke R2 乗0.7320.8190.1090.0000.854

*:p<0.05.**:p<0.01.***:p<0.001

以上の分析結果からは,研究大学強化促進事業とスーパーグローバル大学創成支援事業はそれぞれ有意な正の効果を持っていることが分かる。その一方で,COCは有意でないもののマイナスの符号となっている。この分析結果から導き出される知見としては,国際型の選択に当たって,研究大学強化促進事業とスーパーグローバル大学創成支援事業への採択が極めて大きな影響を与えており,これらへの採択を通じて,該当大学は自大学を国際型にふさわしい大学であると学習したことが考えられうる。

この結果は,「地域型」への選択という点でも示唆的である。被説明変数について「地域型」を1,「国際型」を0と設定したモデルでも,有意な変数に当然ながら差異はない。つまり,「地域型」を選択する際の統計上有意な変数は,「研究大学強化促進事業」に採択されていないという変数と,「SGU」に採択されていないという変数であり,COCに採択されたという変数は有意ではない。これはすなわち,研究力強化やグローバル化に関する競争的資金に採択されていない状況では「地域型への選択」の説明が可能であるが,COCへの採択では「地域型への選択」は説明できないことを意味する。つまり,「地域型」はCOCに採択されたから「地域型」を選択したというのではなく,研究力強化やグローバル化強化に関わる競争的資金に採択されなかったから,「地域型」を選択した,もしくは,「地域型」への選択を強いられたとも表現可能であるのが,統計分析の意味することとなる。競争的資金への採択は「加熱」を促しただけでなく,競争的資金に採択されなかったために「冷却」されたというのが統計分析結果の示すところなのである。

9  ロジスティック回帰分析については,被説明変数と説明変数でクロス表を作成した時に,0となるセルが存在する場合において,推計が困難となる。下記のがそのような状況を示したものである。このような場合においては,分析を行っていない。

表13 ゼロますの例(COEへの採択とその後の選択)

三つの分類の選択
COEへの採択国際型地域型合 計
採 択131932
不採択01515
合 計133447

10  SGUについても,タイプAとタイプB,それぞれで分析を行った場合に,0のセルが登場することになる。それを避けるために,ロジスティック回帰分析においては,SGUのタイプAもしくはタイプBに採択された大学とそうでない大学で分けた形で統計分析を行うこととした。

11  順位相関係数の算出に際しては,支援3類型において「国際型」を選択した大学を「1」,「地域型」を選択した大学を「0」とし,各競争的資金への採否については,「採択」された大学を「1」,「不採択」の大学を「0」と設定した上で,順位相関係数の算出を行った。

5. 知見の整理と考察

5.1 知見の整理

本稿で得られた知見は以下の通りである。2000年代より拡大した競争的資金であるが,2000年代のそれは研究科等を単位とした配分であり,比較的幅広い大学への配分が行われていたことが分かる。しかし,2010年代より開始された研究大学強化促進事業やSGUといった競争的資金は大学を単位とした配分であり,戦前から大学の歴史を有する,一部の威信のある総合大学(総合・旧帝大,総合・旧官大〔文・理〕)を支援する構造となっていた。一方で,総合・旧官大〔医あり〕以外の総合・複合大学は研究大学強化促進事業やSGUへの採択には至らず,自大学の役割を,徐々に地域振興にシフトすることになる。それを支える形で開始されたCOCについては,確かにこれらの大学を支援するものとなるが,全ての大学が採択されているわけではなかった。なお,単科大学については,一部,戦後の新設大学が研究大学強化促進事業やSGU等に採択されてはいるものの,総合・複合大学と同様に,戦前からの歴史を有する一部の威信のある大学を支援する構造であった点では総合・複合大学と同じ構造であった。併せて,その他の競争的資金であるCOCやAP等への採択は極めて限定的であったといえる。

そして,総合大・複合大について,これらの競争的資金への採択とその後の支援3類型における地域型と国際型の選択との関係の検討を行った所,研究力強化やグローバル化に関連する競争的資金が,その後の選択に影響を与えていることが明らかになる一方で,地域振興や教育改善に関連する競争的資金は,その後の選択に影響を与えていないことが明らかになった。すなわち,研究大学強化促進事業やスーパーグローバル大学創成支援事業という競争的資金が,国際型あるいは地域型への選択に大きな影響をもたらしていることが明らかにされた。

5.2 考察

これらの結果に基づいて,以下2点ほど述べる。一点目は,国立大学3類型(本分析においては「地域型」と「国際型」の選択)に関わる申請は決して完全に自由に行われたものではなく,従来から存在していた国立大学の格差構造を競争的資金配分の結果を通じて,各大学に改めて学習させ,彼らの自己規定の下で『自主・自立的』な選択の体をとった「実質的」な種別化であり,出来レースのようにさえ見えるものであるという点についてである。こうした形で「選ばれ(選ばされ)た」地域型としての大学の位置づけは,それらの国立大学にとって真に活力を生み出しうる自大学像となりうるのであろうか。すなわち,地域型の大学として位置付けられることで,それらの大学がもつ研究力や国際競争力の発展が抑制されることにつながる可能性は無視できないのではないだろうか。国立大学が有する多様な機能を単純な実質的種別化の中で棄損させてはならない12

二点目は,こうした競争的資金配分は指定国立大学法人制度や国際卓越研究大学などによりさらなる国際型大学,さらには旧帝大内部での新たな種別化を進めている。こうした形での一部の国立大学への「非指定国立大学法人」「非国際卓越研究大学」などのラベリングは,全体としての生産性に対してどのような影響を与えうるのであろうか。こうした観点も含めて全体的な生産性と競争的資金配分の拡大の関係性について検討していくことが大事であると考える。

12  村上・伊神(2020)の分析に基づけば,「地域型」に属する大学においても,一定の分野で国際的に卓越した研究成果を残していることが分かる。加えて,同書の分析に基づけば,我が国の研究分野での国際競争力強化においては,「地域型」大学の研究力強化が極めて重要であるとも考えられる。確かに,大学として世界に伍することを目指すことは難しいかもしれないが,「地域型」大学としての自己認識が強化されることで,意図せざる形で研究分野での国際的競争力に関わる機能に抑圧が生じることがあってはならない。

6. 今後の課題

一つ目の課題は,本稿が競争的資金の採択という極めて限られた情報を用いて,大学が種別化されるプロセスの説明を試みたものに留まるということである。そこには,大学の教育力や研究力に加えて,グローバル化の進捗状況等に関する情報は含まれていない。この点は,データに基づいた事実把握が期待されるところである。

二つ目は「経営力」という視点からの分析である。競争的資金は各大学が作成した公募書類に対する評価であり,経営力を評価した結果であるという側面はある13。それであれば,経営力という視点からの分析が必要である。これは量的なアプローチというよりも,質的調査に基づく調査・分析が望まれる。

三つ目の視点として,改めて国立大学の社会的役割は何かを考えることである。幅広く配置された国立大学には,教育や研究だけでなく,地域社会を変革するエンジンとしての役割や産学連携や地域で活躍する人材養成といった多様な役割が期待されている。そのような前提を踏まえた上で,改めて国立大学の在り方を考えること,併せて,それを実現するための財政支援の在り方も改めて問われているといえる。

四つ目の視点として,本稿で扱った期間以降の追加の調査研究が考えられる。これらの競争的資金を経て,第四期中期目標・中期計画期間以降は,国際卓越研究大学や地域中核・特色ある研究大学強化促進事業といった制度が開始され,認定された大学への予算配分が開始されようとしている。ファンディング・システムが多様化していく中で,大学への資金配分の実態把握を行うだけでなく,それが大学の活動にどのような影響を与えているかの検討が期待される。

最後に今回扱った「国立大学における学習過程」は,大学側の意思決定と同時に競争条件を設定する文科省などの政策当局の政策デザインや目的とセットであり,すなわち,ゲームのルールとそれへのゲーム参加者の行動によって決定されていることを意味する。これゆえに,ゲーム論,エージェンシー理論等を用いつつ実証分析の範囲をそれぞれの意志や意図を広げながら考慮を深めることなどが今後の課題にあげられる14

13  今回扱った競争的資金は,申請書とヒアリングに基づく評価で採択される大学を決定する。その意味では,それらを作成できる「経営力」の差という考え方もできる。この点は,今後の研究に期するが,仮に経営力の反映と考えるのであれば,そこにも差が生まれていること,併せて経営力が大学分類で説明できてしまうことになる。それは,既に研究力を有している大学が,経営力も有しており,結果として今後も競争的資金を獲得する一方で,そうでない大学は競争的資金を獲得することができない状況を生みだす。そのサイクルが続くことで,更なる格差構造が生み出される可能性がある。この点,明確な解決策は提示できないが,法人化から20年程度を経過した国立大学の状況である点は理解しておく必要がある。

14  具体的には,国立大学法人制度という条件の中で,政府と大学の関係を通して両者の行動を解明する作業を行う必要があり,藤村(2020)等の先行研究を参考とする。

謝辞

*本稿は科研費(22K02683)による研究成果の一部である。

引用文献・参考文献
 
© 2024 The Author(s).

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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