2000年代以降に拡大した競争的資金は,個人を対象とするものから大学を単位とするものまで多様化している。その目的も,研究を支援するものから,グローバル化や教育力の向上,更には地域貢献機能の強化といった形で同じく多様化している。
本稿では,これらの政府からの競争的資金の配分結果(現実)を通じて,政府により各国立大学の「自主性」のもとでの機能分化という形で,実質的な種別化を推し進められたプロセスについて検討する。すなわち,競争的資金の公募に採択される(もしくは採択されない)ことを通して,各大学が自大学の機能や役割についての自己学習とそれに基づく自己規定を行い,その結果として大学の機能分化が「自主的に」進行するとともに,2010年代には大きな抵抗もなく,実質的な国立大学の種別化が進められたプロセスを明らかにする。
Since the 2000s, competitive funding has expanded and diversified from targeting individuals to supporting universities. Its mission has also shifted from supporting research to bolstering the functions of universities, enhancing their educational capabilities, and strengthening their regional contributions. In this regard, the selection of a university for government competitive funding can be interpreted as an indication of the government’s recognition of the selected university’s mission. In other words, competitive funding allocation involves the message from the government to national universities. Thus, this study examines how the government’s allocation of competitive funding has fostered differentiation through its function and visualization in national universities.
大学は,設置者,大学の規模,予算,研究生産性等に差異があり,極めて多様な組織体である。本稿で分析対象とする国立大学においても,様々な点で大学間に差異があり,(その一部は格差とも表現しうるもので),大学間でその果たす機能の程度が異なっているのは厳然たる事実である。一方で,国立大学に限らず,日本の大学においては,大学群をその機能に基づいて,種別化することには大きな抵抗があった1。例えば,2017年度より開始された専門職大学制度であるが,職業教育に特化した教育という点で,「従来型」の大学と区分されることになる。その一方で,従来の大学群を「職業型」と「非職業型」に分類することはできず,その結果として,専門職大学という新たな制度の導入が行われることとなったのである。このような事実からも明らかなように,日本の「大学」には,大学を種別化することに対して大きな抵抗があったと考えられる。
そのような中で,国立大学の法人評価の文脈においてではあるが,国立大学を「国際型」,「分野型」,「地域型」の三つに分類する取り組みが行われた(文部科学省,2015)。この取り組みにおいて,各国立大学は上記の三つの型から一つを選択することとなっており,その選択結果は公開されている。それでは,何故国立大学において,各大学による選択という形をとっているにしても,上記のように国立大学を複数の種類のカテゴリーに分類する実質的な種別化が大きな反発もなくなされたのであろうか。そこには様々な要因が考えらえるが,本稿ではそれを「競争的資金への採択/不採択の履歴」に求めることとする。すなわち競争的資金への採択と不採択という情報を踏まえて,各大学は自大学に期待される「機能」について学習し,そのように自己規定をし直すことによって実質的な種別化へ至る道を自ら「自主的に」選びとることとなったというものである。
なお,本稿では,2000年代を境に大幅に拡大した競争的資金を扱う。それらは,個々の研究者に配分する科学研究費補助金等だけでなく,学部・研究科や研究所,大学等を単位に配布するものまで,実に多様化し,現在に至っている。
はじめに国立大学の種別化とその後の機能分化に関わる政策の歴史的概略を天野(2006)に基づいて紹介する。そのうえでこれらに関わる国立大学の機能やそれを支える財務面に関わる実証分析,さらにはそれらの機能についての自大学認識に関する先行研究を整理したうえで,本稿の課題について述べる。
天野(2006)に基づけば,現在の機能分化と強く関係しているのが,1963年に出された中央教育審議会の答申である「大学教育の改善について」(いわゆる三八答申)であり,そこでは大学を2種類に分けた種別化構想(大学院大学と大学)が提示されている。その後,1971年に出された中央教育審議会の答申である「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」(いわゆる四六答申)において種別化構想はさらに発展し,3種類の種別化案(研究院,大学院,大学)が提示されることとなる。しかしながら,「既存の大学を種別化の方向で大幅に改革し,国立大学の内部で種別化を積極的に推し進める」ことはなかったとされている(天野,2006 p. 201)。その後,こうした種別化構想に変化が生じることとなる。すなわち大学審議会が1998年に出した答申の「21世紀の大学像」において,大学の多様化・個性化宣言が発せられているが,ここには政府が行う種別化構想からの変更が生じており,大学はそれぞれの理念に基づき,それぞれの大学が目指す方向の中で多様化・個性化を図りつつ発展していくことが重要であると指摘しているのである。すなわち大学自身で,その方向性を決定することが重要であると述べられている。その後,中央教育審議会が2005年に出した答申の「我が国の高等教育の将来像」においては,大学の機能分化として七つの機能を提示するとともに2(天野,2006 p. 206),「きめ細やかなファンディング・システム」を通して,大学の判断に基づく選択的多様化・個性化の推進が企図された。このように高等教育政策において,大学の種別化にはじまり,それに変化が加えられた機能分化が半世紀以上にわたって推奨されてきたことが分かる。
次に以上に関わる,そもそもの国立大学の機能やそれを支える財務実態について着目すると,機能,財務状況,人的資源まで実に多岐に渡る事項で,厳然たる差異があることが先行研究によって明らかにされてきたことがわかる(研究群I)。天野(1968)による大学院の設置状況に基づく大学間の差異の検討に端を発し,大学分類に基づく教育機能や入学状況の差異の検討が行われてきた3(天野,1984)。その後の研究としては,小林(2002)においては,改めて教育機能の差異が検証されるとともに,決算額や外部資金の獲得状況も踏まえて国立大学の格差構造が明らかにされている。また吉田(2002)は,歴史的経緯と当時の学部構成を踏まえて国立大学の分類を行うとともに,各分類を構成する大学群が有する教育機能や研究機能の差異に加えて,地域交流機能の差異の検討を行っている。そして,島(2009a,2009b,2009c)においては,研究機能,教育機能に加えて大学開放機能までも網羅する形で,より多様な指標を取り上げて国立大学間の差異と格差の構造が明らかにされてきた。
その後,国立大学の法人化を経て,各大学の詳細な財務情報が公開されることになるが,それらの情報を用いて,大学間での財務状況の差異も明らかにされるようになっている(山本,2006)。財務状況の分析については,法人化以降の競争的資金の拡大や病院収入の拡大等の事象を踏まえて,改めて財務状況の格差構造が明らかにされることになる(島,2012)。近年では大学間での財務状況の格差構造とその拡大を,競争的資金の獲得状況の差異から検討することに加えて(藤村,2022),法人化が教育・研究という大学の機能に与えた影響を財務面から検討し,そこに大学間の差異が見られることも明らかにされている(水田,2018)。
このように,教育や研究の機能に関わることから,それを支える財務状況に至るまで,実に多岐に渡る点で,国立大学間の「差異」が明らかにされてきたことが分かる。
また,厳然として存在する大学間での機能の差異とは別に,自大学が果たしている機能についての認識に見られる差異を読み取ろうとする研究も見られる(研究群II)。そのための一つ目の方法は,アンケート調査に基づく,認識の差異の検討である。村澤・葛城(2007)においては,全国の学長や学部長等を対象に,自大学が果たしている機能や今後果たすべき機能と既存の大学分類の関係から整理を行い,その「ずれ」についての検討を行っている。二つ目の方法は,各大学が作成した文書から,個々の大学の機能に関わる認識を把握する試みがあげられる。島(2022)では,中期目標・中期計画の「前文」に着目し,その中で,世界的研究・教育拠点を志向する語が含まれているかどうかの検討を行った上で,世界・アジア大学ランキングの状況等と比較して,世界的研究・教育拠点としての自大学認識が抑制的となっていることを指摘している。最後に本稿で用いるアプローチを使用した研究群として,競争的資金への申請や採択状況から,各大学に期待されている機能を明らかにするものがあげられる(研究群III)。島(2016)では,政府からの競争的資金の採択結果が,既存の大学分類と強い対応関係を示していることを明らかにした。原田(2017)においては,競争的資金の「申請」の状況から,各国立大学が目指している機能の検討を行い,一部の研究大学は,その機能を明確化している一方で,地方に設置されている総合・複合大学において,それが「実質的」な種別化と言える状況までには至っていないことを示している。小入羽(2016)では,競争的資金の申請の情報に加えて,採択の情報も用いて,各大学が希望する機能と政府が個々の大学に期待する機能について,設置形態間での差異を明らかにしている。そして,国立大学はそもそも競争的資金への関心が強いが,地域貢献の機能強化については公立大学の関心が強いことを明らかにしている。
本稿では,これらの先行研究を踏まえつつ,主として研究群IIIの延長上において,扱う競争的資金を拡大させるのに加えて,実質的な種別化として位置づけられる,前述した「三つの型」の選択過程までを分析対象に加える。そして,「政府の国立大学に対する役割期待声明」とも考えうる競争的資金の採否という形のメッセージの交換が行われたことで,一部の国立大学の自大学認識の冷却化などが生じたことにより,実質的な種別化が大きな混乱のないまま行い得たプロセスをクロス表分析とロジスティック回帰分析を用いて明らかにすることとしたい。
本稿で扱うのは,大学分類に関する情報と競争的資金への採択に関する情報である。大学分類の情報については,島(2011)の結果を活用している。表1はその結果である。島(2011)は,吉田分類4 を基盤にしつつ,その後の大学統合等への配慮もなされている。たしかに,これ以降に生じた一法人複数大学の設置といった変化を扱っていないものの,本稿で扱う時期については,島(2011)の分類で対応可能となっている5。
大学分類 | 大学名 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
総合・旧帝大 | 北海道大学 | 東北大学 | 東京大学 | 名古屋大学 | 京都大学 | 大阪大学 | 九州大学 |
総合・旧官大〔文・理〕 | 筑波大学 | 神戸大学 | 広島大学 | ||||
総合・旧官大〔医あり〕 | 千葉大学 | 新潟大学 | 金沢大学 | 岡山大学 | 長崎大学 | 熊本大学 | |
総合・新制大〔医あり〕 | 群馬大学 | 信州大学 | 富山大学 | 岐阜大学 | 島根大学 | 山口大学 | 香川大学 |
愛媛大学 | 佐賀大学 | 大分大学 | 鹿児島大学 | 琉球大学 | |||
複合・新制大〔医あり〕 | 弘前大学 | 秋田大学 | 山形大学 | 福井大学 | 山梨大学 | 三重大学 | 鳥取大学 |
徳島大学 | 高知大学 | 宮崎大学 | |||||
複合・新制大〔医なし〕 | 岩手大学 | 福島大学 | 茨城大学 | 宇都宮大学 | 埼玉大学 | 横浜国立大学 | 静岡大学 |
滋賀大学 | 和歌山大学 | ||||||
単科・旧官大 | 東京医科歯科大学 | 東京工業大学 | 一橋大学 | ||||
単科・旧女高師 | お茶の水女子大学 | 奈良女子大学 | |||||
単科・旧専門〔文〕 | 小樽商科大学 | 東京外国語大学 | 東京芸術大学 | ||||
単科・旧専門〔教〕 | 北海道教育大学 | 宮城教育大学 | 東京学芸大学 | 愛知教育大学 | 京都教育大学 | 大阪教育大学 | 奈良教育大学 |
福岡教育大学 | |||||||
単科・旧専門〔工〕 | 室蘭工業大学 | 東京農工大学 | 電気通信大学 | 名古屋工業大学 | 京都工芸繊維大学 | 九州工業大学 | |
単科・旧専門〔農・海〕 | 帯広畜産大学 | 東京海洋大学 | |||||
単科・新設大〔医〕 | 旭川医科大学 | 浜松医科大学 | 滋賀医科大学 | ||||
単科・新設大〔教〕 | 上越教育大学 | 兵庫教育大学 | 鳴門教育大学 | 鹿屋体育大学 | |||
単科・新設大〔工〕 | 北見工業大学 | 長岡技術科学大学 | 豊橋技術科学大学 | 筑波技術大学 | |||
単科・大学院大学 | 政策研究大学院大学 | 北陸研究大学院大学 | 奈良先端研究大学院大 | 総合研究大学院大学 |
次に,競争的資金への採択に関する情報としては,各公募のHP上の情報からその結果をデータ化している。表2が本稿で扱う競争的資金の概要である6。
競争的資金 | 略称 | 申請情報 | 採択情報 |
---|---|---|---|
21世紀COEプログラム | COE | × | ○ |
研究大学強化促進事業 | 研究強化 | × | ○ |
知(地)の拠点整備事業 | COC | ○ | ○ |
スーパーグローバル大学創成支援事業 | SGU | ○ | ○ |
大学教育再生加速プログラム | AP | ○ | ○ |
なお,本稿で扱う競争的資金の第一段階選択の条件としては,文部科学省の「大学教育再生戦略推進費」であることとした。同推進費は,「中央教育審議会等で提言された政策課題に特化した誘導型の補助金」であると記載されている(文部科学省,2022)。その実態としては,デジタル化や復興支援等のテーマ設定型がある一方で,大学全体の教育や研究の改善に資するものまであり,実に多様である。本稿では,これらのうち学部・研究科や大学等への総合的な支援を目的とした競争的資金で,大学の在り方そのものを規定する競争的資金を分析対象として設定している。
最後に,実質的種別化の到達点としては,国立大学の法人評価において,第3期中期目標期間における運営費交付金の配分のために作成された予算配分の枠組みを活用する(文部科学省,2015)。文部科学省は,第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会を設置し,「第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方について(審議まとめ)」を公表し,「機能強化の方向性に応じた重点配分の枠組み」という方式での支援を開始した。支援の枠組みを表3に示している。各大学は,自大学の機能強化の方向性を上記の重点支援①から重点支援③の中から選択することになる。選択結果を踏まえて,各グループ内での評価がなされることになる。本稿では,それぞれを「地域型」「分野型」「国際型」と標記することにする。
重点支援① | 主として,地域に貢献する取組とともに,専門分野の特性に配慮しつつ,強み・特色のある分野で世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援 | 地域型 |
重点支援② | 主として,専門分野の特性に配慮しつつ,強み・特色のある分野で地域というより世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援 | 分野型 |
重点支援③ | 主として,卓越した成果を創出している海外大学と伍して,全学的に卓越した教育研究,社会実装を推進する取組を中核とする国立大学を支援 | 国際型 |
注)文部科学省(2015)をもとに筆者作成
本稿では初めに,大学分類と競争的資金への採択状況に関するクロス表分析を行う。この分析から,大学の基本的な特徴を反映させて作成した大学分類と競争的資金への採択がどの程度関係しているかを明らかにする。次に競争的資金への採択と前述した「支援3類型」がどの程度関係しているかを明らかにする。これらの分析を通して,各競争的資金の採択/不採択が各大学にとってどのような意味を有していたのか,大学は何を「学習」したのか検討する7,8。
最後に,単科大学を除く総合・複合大学を対象に,本稿で扱う競争的資金への採択/不採択の情報が,「支援3類型」の選択に対する要因となっていたのか,どの程度それらで説明が可能であるかについて,ロジスティック回帰分析を用いて検討する。
21世紀COEプログラムは,2002年から開始されたものであり,世界トップレベルの大学と伍して教育及び研究活動を行っていくために,世界最高水準の研究教育拠点を形成することを目指して,その拠点に重点的な支援を行うものであるとされている(日本学術振興会,2008)。
表4は,COEについて,大学分類とCOEに採択された大学との関係を示したものである。なお,単純化のため単科大学については,「単科・旧専門」と「単科・新設大」に統合した形で集計している。
大学分類 | 採択 | 不採択 | 採択率 |
---|---|---|---|
総合・旧帝大 | 7 | 0 | 100.0% |
総合・旧官大〔文・理〕 | 3 | 0 | 100.0% |
総合・旧官大〔医あり〕 | 6 | 0 | 100.0% |
総合・新制大〔医あり〕 | 7 | 5 | 58.3% |
複合・新制大〔医あり〕 | 6 | 4 | 60.0% |
複合・新制大〔医なし〕 | 3 | 6 | 33.3% |
単科・旧官大 | 3 | 0 | 100.0% |
単科・旧専門 | 7 | 14 | 33.3% |
単科・新設大 | 3 | 8 | 27.3% |
単科・大学院大学 | 3 | 1 | 75.0% |
初めに,注目すべきは,戦前からの大学としての歴史をくむ大学(総合・旧帝大,総合・旧官大〔文・理〕,総合・旧官大〔医あり〕,単科・旧官大)は,総合大学・単科大学に限らず,全て採択されているということである。次に着目すべきは,新制の大学であっても,総合大学,複合大学は全体の5割程度が採択されているが,単科大学の採択率はそれよりも相対的に低いことが分かる。ただし,単科・大学院大学の採択率は単科・旧官大についで単科大学の中で高くなっている。このように,21世紀COEプログラムの段階で,大学分類に基づけば,歴史が古く,総合・複合大学が採択されやすいという傾向があるものの,全ての大学分類において採択大学が存在しており,総じて高い採択率にあることが確認された(55.8%)。
なお,COEプログラムは,研究科や研究所等を単位として申請を行い,採択されればその単位で事業を行う競争的資金であった。この点は,後述する競争的資金が大学単位で申請を行い,採択されれば全学で事業を行うという点で,意味合いが異なる。新制大学や単科大学の中にも,強みのある研究科や全国的にも特徴的な研究所を有していることがあり,それらの部局にCOEの予算が配分されていたことも上記のような結果の要因の一つといえる。
4.1.2 研究大学強化促進事業2010年代においては,大学改革実行プランを経て,大学を単位とする競争的資金が本格的に開始される。同時に,研究力強化だけでなく,地域貢献機能の強化や国際的に活躍できる大学への変貌等を期待する競争的資金も加わる。
そこで初めに,2013年より開始された研究大学強化促進事業を検討する。同プログラムは,「世界水準の優れた研究活動を行う大学群の増強を目的に,文科省が毎年2~4億円を選定大学に10年間配分するもの」であった(島,2016)。表5は,研究大学強化促進事業について,大学分類とそれへの採択がなされた大学との関係を示したものである。
大学分類 | 採択 | 不採択 | 採択率 |
---|---|---|---|
総合・旧帝大 | 7 | 0 | 100.0% |
総合・旧官大〔文・理〕 | 3 | 0 | 100.0% |
総合・旧官大〔医あり〕 | 2 | 4 | 33.3% |
総合・新制大〔医あり〕 | 0 | 12 | 0.0% |
複合・新制大〔医あり〕 | 0 | 10 | 0.0% |
複合・新制大〔医なし〕 | 0 | 9 | 0.0% |
単科・旧官大 | 1 | 2 | 33.3% |
単科・旧専門 | 1 | 20 | 4.8% |
単科・新設大 | 1 | 10 | 9.1% |
単科・大学院大学 | 1 | 3 | 25.0% |
初めに,本事業でも,総合・旧帝大,総合・旧官大〔文・理〕は全ての大学が採択されている。そして,総合大学の中では,総合・旧官大〔医あり〕において,採択されたものとそうでないものがある一方で,総合・新制大〔医あり〕においては採択大学が一つもなく,複合大学も同様に採択された大学が一つもないことがあげられる。こうした点がCOEとは大きく異なる点となっている。また,単科大学についても採択大学が大きく絞られており,歴史のある東京工業大学(単科・旧官大)が採択されているのに加えて,電気通信大学(単科・旧専門〔工〕),豊橋技術科学大学(単科・新設大〔工〕),奈良先端科学技術大学院大学(単科・大学院大学)が採択されており,工科系の単科大学のみが採択されていることがわかる。結果として,COEと比べれば,全体的に採択率が下がり,19.8%となっていることが明らかになった。
4.1.3 スーパーグローバル大学創成支援事業研究大学強化促進事業の公募を経て,新たに募集が開始されたのが,スーパーグローバル大学創成支援事業である。同事業は,「研究と教育におけるグローバリゼーションを進めつつ世界クラスの大学を支援するため,タイプAの大学(13大学:うち国立大学は11大学・84.6%)に関しては,10年間毎年4.2億円の資金配分を行う。また,タイプBの大学(24大学:うち国立大学は10大学・41.7%)については,グローバル化促進のために文科省は10年間毎年1.72億円の資金配分を行う」ものであった(島,2016)。このようにSGUの特徴としては,タイプAとタイプBの二つのタイプでの公募が準備されていたことがあげられる。タイプAは「トップ型」と位置づけられ,「世界大学ランキングトップ100を目指す力のある,世界レベルの教育研究を行うトップ大学を対象」としている(文部科学省,2014)。一方のタイプBは,「これまでの実績を基に更に先導的試行に挑戦し,我が国の社会のグローバル化をけん引する大学を対象と」するとある(文部科学省,2014)。このように,グローバル化を基盤にした二つの公募が準備されている。そこで,タイプAとタイプB,それぞれに検討を行うことにする。表6は,SGUのタイプAに採択された大学と大学分類との関係を示したものである。
大学分類 | 採択 | 不採択 | 採択率 |
---|---|---|---|
総合・旧帝大 | 7 | 0 | 100.0% |
総合・旧官大〔文・理〕 | 2 | 1 | 66.7% |
総合・旧官大〔医あり〕 | 0 | 6 | 0.0% |
総合・新制大〔医あり〕 | 0 | 12 | 0.0% |
複合・新制大〔医あり〕 | 0 | 10 | 0.0% |
複合・新制大〔医なし〕 | 0 | 9 | 0.0% |
単科・旧官大 | 2 | 1 | 66.7% |
単科・旧専門 | 0 | 21 | 0.0% |
単科・新設大 | 0 | 11 | 0.0% |
単科・大学院大学 | 0 | 4 | 0.0% |
採択された大学は,総合・旧帝大及び総合・旧官大〔文・理〕に加えて,単科・旧官大のみとなっている。すなわち,他の大学群は全く採択されておらず,全体的な採択率は12.8%に留まる。こうした結果,COE→研究大学強化促進事業→スーパーグローバル大学創成支援事業(タイプA)に至るプロセスで,採択される大学がより限定されるに至っている。ただし,この3つの事業においては総合・旧帝大はすべて選ばれ続けていることがわかる。
表7は,SGUのタイプBの採択の状況と大学分類の関係を示したものである。
大学分類 | 採択 | 不採択 | 採択率 |
---|---|---|---|
総合・旧帝大 | 0 | 7 | 0.0% |
総合・旧官大〔文・理〕 | 0 | 3 | 0.0% |
総合・旧官大〔医あり〕 | 4 | 2 | 66.7% |
総合・新制大〔医あり〕 | 0 | 12 | 0.0% |
複合・新制大〔医あり〕 | 0 | 10 | 0.0% |
複合・新制大〔医なし〕 | 0 | 9 | 0.0% |
単科・旧官大 | 0 | 3 | 0.0% |
単科・旧専門 | 3 | 18 | 14.3% |
単科・新設大 | 2 | 9 | 18.2% |
単科・大学院大学 | 1 | 3 | 25.0% |
初めに,総合・複合大学に着目すると,タイプAに採択された大学を除くと,採択大学が出ているのは,総合・旧官大〔医あり〕のみとなっている。ただし,同類型においても採択されない大学もある。その一方で,その他の総合・複合大学に着目すると,一大学も採択されていないことがわかる。このことは研究大学強化促進事業と軌を一にしている。
次に,単科大学に着目すると,大学分類横断的に採択されていることが分かる。採択された大学は,関東圏の文科系単科有力大学(東京外国語大学,東京芸術大学)と,工科系の単科大学(京都工芸繊維大学,長岡技術科学大学,豊橋技術科学大学,奈良先端科学技術大学院大学)となっている。ただし,単科・旧専門,単科・新設大,単科・大学院大学の採択率は高くなく,全体の採択率も11.8%となっている。前述のスーパーグローバル大学創成支援事業(タイプA)と合算した場合の採択率は24.4%となっており,研究大学強化促進事業よりも採択大学は若干増えているが,COEと比較して採択される大学の数がかなり少なくなっていることが分かる。
このように,SGUへの採択もまた一部の大学に限られていたことが分かる。そして,一部の大学への資源配分は,二つの効果があったことが考えられる。採択され続けた一部の大学は,自大学の役割として,研究力強化やグローバル化こそが自大学の機能であるという志向を「加熱」させることにつながったのであろう。それが,その後の「国際型」への選択につながったと考えられうる。一方で,採択されなくなった大学にとって,採択されないという状況が,自大学の役割が研究力強化やグローバル化と考えることを徐々に「冷却」させられることにつながったと考えられる。これらの競争的資金に採択されないという結果もまた,採択されるのとは異なる形で,そこに政府からのメッセージを読み取った可能性が指摘されなければならない。
4.1.4 地(知)の拠点整備事業ここまでは,大学の「研究」と「グローバル化」に関する競争的資金の検討を行ってきた。2010年代に入ると,新たな競争的資金として,地域貢献や地域振興を目的とした資金配分も開始されている。そこで,そのような競争的資金の始まりであり,大学を単位として採択校が選ばれた「地(知)の拠点整備事業(COC)」に着目して,大学分類での検討を行う。COCは,2013年より開始されたもので,「地域貢献する大学をサポートするために,文科省は5年間1.2億円を上限として毎年配分する。2013年については51大学が採択され,そのうち国立大学は22大学・43.1%となっている」とある(島,2016)。
表8は,COCに採択された大学数を大学分類ごとに示したものである。まず初めに総合・複合大学に着目すると,総合・旧帝大については一大学のみの採択となっており,総合・旧官大〔文・理〕の採択も一大学に留まる。その一方で,総合・旧官大〔医あり〕,総合・新制大〔医あり〕,複合・新制大〔医あり〕の順で採択率が高くなっている。加えて,これまで研究大学強化促進事業やスーパーグローバル大学創成支援事業において採択のなかった複合・新制大〔医あり〕,総合・新制大〔医あり〕の採択が多くなされている。
大学分類 | 採択 | 不採択 | 採択率 |
---|---|---|---|
総合・旧帝大 | 1 | 6 | 14.3% |
総合・旧官大〔文・理〕 | 1 | 2 | 33.3% |
総合・旧官大〔医あり〕 | 3 | 3 | 50.0% |
総合・新制大〔医あり〕 | 8 | 4 | 66.7% |
複合・新制大〔医あり〕 | 8 | 2 | 80.0% |
複合・新制大〔医なし〕 | 4 | 5 | 44.4% |
単科・旧官大 | 0 | 3 | 0.0% |
単科・旧専門 | 3 | 18 | 14.3% |
単科・新設大 | 0 | 11 | 0.0% |
単科・大学院大学 | 0 | 4 | 0.0% |
一方,単科大学についてみた場合,単科・旧専門のみの採択となっているものの,採択率は決して高くないことが分かる。このことは地域貢献や地域振興において,研究大学強化促進事業やスーパーグローバル大学創成支援事業に採択されていない総合・新制大〔医あり〕,複合・新制大〔医あり〕,複合・新制大〔医なし〕等において,その事業に対する期待があり,総合・旧官大〔医あり〕についても,こうした役割期待が一部なされていることが分かる。
COCについては,採択率は32.6%であり,研究大学強化促進事業やスーパーグローバル大学創成支援事業と比べて採択率が高い。これらの結果から,COCへの採択は一部の総合・複合大学にとって自大学が「地域貢献や地域振興」を期待されている大学であることを学習する機会を果たしたと考えられうる。
4.1.5 大学教育再生加速プログラム最後に,「大学教育再生加速プログラム(AP)」の検討を行う。表9は,APに採択された大学数を大学分類ごとに示したものである。APは,「2014年から,先端的な教育改革に取り組む大学をサポートするために,文科省は1800万円~5600万円を選定大学に5年間資金配分する。39大学が採択され,そのうち国立大学は11大学・28.2%」であった(島,2016)。
大学分類 | 採択 | 不採択 | 採択率 |
---|---|---|---|
総合・旧帝大 | 0 | 7 | 0.0% |
総合・旧官大〔文・理〕 | 1 | 2 | 33.3% |
総合・旧官大〔医あり〕 | 5 | 1 | 83.3% |
総合・新制大〔医あり〕 | 2 | 10 | 16.7% |
複合・新制大〔医あり〕 | 3 | 7 | 30.0% |
複合・新制大〔医なし〕 | 3 | 6 | 33.3% |
単科・旧官大 | 0 | 3 | 0.0% |
単科・旧専門 | 4 | 17 | 19.0% |
単科・新設大 | 1 | 10 | 9.1% |
単科・大学院大学 | 0 | 4 | 0.0% |
初めに,総合・複合大学を見てみると,総合・旧帝大は採択されていない。一方で,旧官大〔医あり〕の採択率が最も高い(83.3%)ことが指摘できる。また,これに次いでいるのが,総合・旧官大〔文・理〕と複合・新制大〔医なし〕となっている。この他にも,総合・旧帝大を除く全ての総合・複合大学で採択がなされていることが分かる。
次に,単科大学に着目すると,単科・旧専門,単科・新設大のみでの採択となっており,単科大学の中での採択の割合も広がりも大きくない。全体の採択率は22.1%となっており,必ずしも高い採択率ではないことが分かる。
4.1.6 支援3類型表10は大学分類別に支援3類型への選択状況を示したものである。まず,総合・複合大学についてみてみると,総合・旧帝大と総合・旧官大〔文・理〕は全て国際型を選択していることがわかる。一方で,総合・新制大〔医あり〕,複合・新制大〔医あり〕,複合・新制大〔医なし〕については全て地域型を選択していることが分かる。そして,両者の間に位置する総合・旧官大〔医あり〕は半分が国際型,残りの半分が地域型となっていることがわかる。ここから明確に言えることは,これらの分類は,ほぼ旧来の国立大学の序列構造をそのまま反映した形となっている。
大学分類 | 地域型 | 分野型 | 国際型 | 合 計 |
---|---|---|---|---|
総合・旧帝大 | 0 | 0 | 7 | 7 |
総合・旧官大〔文・理〕 | 0 | 0 | 3 | 3 |
総合・旧官大〔医あり〕 | 3 | 0 | 3 | 6 |
総合・新制大〔医あり〕 | 12 | 0 | 0 | 12 |
複合・新制大〔医あり〕 | 10 | 0 | 0 | 10 |
複合・新制大〔医なし〕 | 9 | 0 | 0 | 9 |
総合・複合大学(合計) | 34 | 0 | 13 | 47 |
単科・旧官大 | 0 | 1 | 2 | 3 |
単科・旧専門 | 12 | 8 | 1 | 21 |
単科・新設大 | 9 | 2 | 0 | 11 |
単科・大学院大学 | 0 | 4 | 0 | 4 |
単科大学(合計) | 21 | 15 | 3 | 39 |
総計 | 55 | 15 | 16 | 86 |
一方で,単科大学については,国際型に分類されているのは,単科・旧官大の2大学と単科・旧専門の1大学に留まる。そして,その他の大学は地域型21大学,分野型15大学となっている。このように考えると,単科大学において国際型を選定した大学は極めて限られていることが分かる。そこで,以上に見てきた競争的資金の配分と支援3類型との関係について次節で検討する。
4.2 競争的資金配分と国立大学の実質的種別化:ロジスティック回帰分析最後に,総合大学と複合大学に焦点を当て,ロジスティック回帰分析を通して,これらの大学における国際型と地域型への選択が,競争的資金の採択/不採択という結果とどの様な関係にあり,またどの程度の説明ができるかを検証する。
なお,以下の分析においては,単科大学を分析から除外する。その主たる理由としては,本稿で扱った競争的資金への採択について,一部の大学を除いて極めて採択が限定的であるためであり,結果として,採択が支援3類型への選択に影響したかどうかを捉えることが難しいためである。もう一つの理由としては,採択された大学が少ないことで,後述する「ゼロます」の問題が発生しやすくなり,結果としてロジスティック回帰分析がそもそも実施できない点もあげられる。
また,総合大学と複合大学については,支援3類型の選択において,全ての大学が「地域型」もしくは「国際型」のみを選択しており,「分野型」の選択を行っていない点は留意されたい。
はじめに,ロジスティック回帰分析を実施する前提として,競争的資金と支援3類型(ただし,ここでは,「地域型」と「国際型」のみが扱われている)との関係に関わる情報を整理したのが,表11である。それぞれ,クロス表に関わるゼロますの有無,カイ二乗検定の結果(5%水準),ケンドールのτの値についてそれぞれ示したものである。
ゼロます | カイ二乗 | ケンドールτ | ロジスティック回帰 | |
---|---|---|---|---|
COE | あり | 有意 | 0.423 | ― |
研究強化 | なし | 有意 | 0.838 | 有意 |
SGU | なし | 有意 | 0.894 | 有意 |
COC | なし | not | -0.278 | not |
AP | なし | not | 0.013 | not |
はじめに,ゼロますの有無を確認した。その理由としては,ロジスティック回帰分析の前提を満たしているかを検討するためである。ロジスティック回帰分析は,二値の確率の値を基にパラメーターを推計する統計分析モデルである。そのため,端的に言えば,クロス表を作成した時に,セルが0となるますが存在する場合は推計が困難になる9。集計結果を見ると,COEについてはゼロますが存在していることから,分析対象から除外することとする10。
次に,カイ二乗の検定を行った上で,順位相関係数であるケンドールのτの値を算出した11。ここから明らかになることとして,COE~SGUまでは支援3類型と有意な関係があり,特に研究大学強化促進事業やスーパーグローバル大学創成支援事業と支援3類型との間には強い正の相関があることが明らかになった。逆にCOCについては有意ではないものの負の相関があることが明らかになった。
以上の結果を踏まえて,ロジスティック回帰分析を行うこととする。具体的には,COEを除いた4つの競争的資金を説明変数として設定した。各説明変数については,採択校を1,不採択校を0とするダミー変数を採用している。それぞれ一変数ずつモデルに加えた形でのロジスティック回帰分析を行っている(モデル1からモデル4)。それらの分析結果を踏まえて,単独で5%水準で有意であった変数を全て投入した形での分析も行った(モデル5)。被説明変数は,支援3類型で,国際型を選択した大学を1,地域型を選択した大学を0と設定している。
表12はロジスティック回帰分析の結果を示したものである。モデル1は,研究大学強化促進事業の採択を説明変数に設定したモデルである。同事業に採択された大学と,採択されていない大学のオッズ比は181倍となる。併せて,モデルの説明力であるNagelkerkeのR2 乗値を見ると,73%となっている。モデル2は,SGUへの採択を説明変数に設定したモデルである。研究大学強化促進事業と同様に,変数の説明力は極めて高く,本事業に採択された大学と採択されていない大学のオッズ比は396倍となる。併せて,モデルの説明力も81%と高い値になっている。このことから,これらの事業に採択されれば,その後,「国際型」を選択する確率が相当数高まり,かつかなりの程度「国際型」の選択に関する説明ができるということになる。次に,モデル3はCOCへの採択を説明変数に設定したモデルである。ここで興味深いことは,COCの採択に関する変数は5%水準で有意ではないということである。併せて,その説明力は10%であり,説明力が低くなっている。つまり,COCに採択されたからといって,国際型を選択しないということにはならないことになる。モデル4は,APへの採択を説明変数に設定したものである。COC同様に変数は有意ではなく,説明力も極めて低い。COC同様に,本事業への採択とその後の選択に関係性は見いだせない。最後のモデル5は,研究大学強化促進事業とSGUの二つの変数を投入したモデルである。後者が有意となり,前者は5%水準では有意とならないが,10%水準では有意といった形になる。これは両説明変数の相関が極めて高いためである。
モデル1 (N=47) | モデル2 (N=47) | モデル3 (N=47) | モデル4 (N=47) | モデル5 (N=47) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
B | Exp(B) | B | Exp(B) | B | Exp(B) | B | Exp(B) | B | Exp(B) | |
研究強化 | 5.201 | 181.500*** | 2.969 | 19.474 | ||||||
SGU | 5.981 | 396.000*** | 4.442 | 84.925** | ||||||
COC | -1.291 | 0.275 | ||||||||
AP | 0.065 | 1.067 | ||||||||
定数 | -2.803 | 0.061*** | -3.497 | 0.030** | -0.368 | 0.692 | -0.981 | 0.375 | -3.828 | 0.022** |
Nagelkerke R2 乗 | 0.732 | 0.819 | 0.109 | 0.000 | 0.854 |
*:p<0.05.**:p<0.01.***:p<0.001
以上の分析結果からは,研究大学強化促進事業とスーパーグローバル大学創成支援事業はそれぞれ有意な正の効果を持っていることが分かる。その一方で,COCは有意でないもののマイナスの符号となっている。この分析結果から導き出される知見としては,国際型の選択に当たって,研究大学強化促進事業とスーパーグローバル大学創成支援事業への採択が極めて大きな影響を与えており,これらへの採択を通じて,該当大学は自大学を国際型にふさわしい大学であると学習したことが考えられうる。
この結果は,「地域型」への選択という点でも示唆的である。被説明変数について「地域型」を1,「国際型」を0と設定したモデルでも,有意な変数に当然ながら差異はない。つまり,「地域型」を選択する際の統計上有意な変数は,「研究大学強化促進事業」に採択されていないという変数と,「SGU」に採択されていないという変数であり,COCに採択されたという変数は有意ではない。これはすなわち,研究力強化やグローバル化に関する競争的資金に採択されていない状況では「地域型への選択」の説明が可能であるが,COCへの採択では「地域型への選択」は説明できないことを意味する。つまり,「地域型」はCOCに採択されたから「地域型」を選択したというのではなく,研究力強化やグローバル化強化に関わる競争的資金に採択されなかったから,「地域型」を選択した,もしくは,「地域型」への選択を強いられたとも表現可能であるのが,統計分析の意味することとなる。競争的資金への採択は「加熱」を促しただけでなく,競争的資金に採択されなかったために「冷却」されたというのが統計分析結果の示すところなのである。
三つの分類の選択 | ||||
---|---|---|---|---|
COEへの採択 | 国際型 | 地域型 | 合 計 | |
採 択 | 13 | 19 | 32 | |
不採択 | 0 | 15 | 15 | |
合 計 | 13 | 34 | 47 |
本稿で得られた知見は以下の通りである。2000年代より拡大した競争的資金であるが,2000年代のそれは研究科等を単位とした配分であり,比較的幅広い大学への配分が行われていたことが分かる。しかし,2010年代より開始された研究大学強化促進事業やSGUといった競争的資金は大学を単位とした配分であり,戦前から大学の歴史を有する,一部の威信のある総合大学(総合・旧帝大,総合・旧官大〔文・理〕)を支援する構造となっていた。一方で,総合・旧官大〔医あり〕以外の総合・複合大学は研究大学強化促進事業やSGUへの採択には至らず,自大学の役割を,徐々に地域振興にシフトすることになる。それを支える形で開始されたCOCについては,確かにこれらの大学を支援するものとなるが,全ての大学が採択されているわけではなかった。なお,単科大学については,一部,戦後の新設大学が研究大学強化促進事業やSGU等に採択されてはいるものの,総合・複合大学と同様に,戦前からの歴史を有する一部の威信のある大学を支援する構造であった点では総合・複合大学と同じ構造であった。併せて,その他の競争的資金であるCOCやAP等への採択は極めて限定的であったといえる。
そして,総合大・複合大について,これらの競争的資金への採択とその後の支援3類型における地域型と国際型の選択との関係の検討を行った所,研究力強化やグローバル化に関連する競争的資金が,その後の選択に影響を与えていることが明らかになる一方で,地域振興や教育改善に関連する競争的資金は,その後の選択に影響を与えていないことが明らかになった。すなわち,研究大学強化促進事業やスーパーグローバル大学創成支援事業という競争的資金が,国際型あるいは地域型への選択に大きな影響をもたらしていることが明らかにされた。
5.2 考察これらの結果に基づいて,以下2点ほど述べる。一点目は,国立大学3類型(本分析においては「地域型」と「国際型」の選択)に関わる申請は決して完全に自由に行われたものではなく,従来から存在していた国立大学の格差構造を競争的資金配分の結果を通じて,各大学に改めて学習させ,彼らの自己規定の下で『自主・自立的』な選択の体をとった「実質的」な種別化であり,出来レースのようにさえ見えるものであるという点についてである。こうした形で「選ばれ(選ばされ)た」地域型としての大学の位置づけは,それらの国立大学にとって真に活力を生み出しうる自大学像となりうるのであろうか。すなわち,地域型の大学として位置付けられることで,それらの大学がもつ研究力や国際競争力の発展が抑制されることにつながる可能性は無視できないのではないだろうか。国立大学が有する多様な機能を単純な実質的種別化の中で棄損させてはならない12。
二点目は,こうした競争的資金配分は指定国立大学法人制度や国際卓越研究大学などによりさらなる国際型大学,さらには旧帝大内部での新たな種別化を進めている。こうした形での一部の国立大学への「非指定国立大学法人」「非国際卓越研究大学」などのラベリングは,全体としての生産性に対してどのような影響を与えうるのであろうか。こうした観点も含めて全体的な生産性と競争的資金配分の拡大の関係性について検討していくことが大事であると考える。
一つ目の課題は,本稿が競争的資金の採択という極めて限られた情報を用いて,大学が種別化されるプロセスの説明を試みたものに留まるということである。そこには,大学の教育力や研究力に加えて,グローバル化の進捗状況等に関する情報は含まれていない。この点は,データに基づいた事実把握が期待されるところである。
二つ目は「経営力」という視点からの分析である。競争的資金は各大学が作成した公募書類に対する評価であり,経営力を評価した結果であるという側面はある13。それであれば,経営力という視点からの分析が必要である。これは量的なアプローチというよりも,質的調査に基づく調査・分析が望まれる。
三つ目の視点として,改めて国立大学の社会的役割は何かを考えることである。幅広く配置された国立大学には,教育や研究だけでなく,地域社会を変革するエンジンとしての役割や産学連携や地域で活躍する人材養成といった多様な役割が期待されている。そのような前提を踏まえた上で,改めて国立大学の在り方を考えること,併せて,それを実現するための財政支援の在り方も改めて問われているといえる。
四つ目の視点として,本稿で扱った期間以降の追加の調査研究が考えられる。これらの競争的資金を経て,第四期中期目標・中期計画期間以降は,国際卓越研究大学や地域中核・特色ある研究大学強化促進事業といった制度が開始され,認定された大学への予算配分が開始されようとしている。ファンディング・システムが多様化していく中で,大学への資金配分の実態把握を行うだけでなく,それが大学の活動にどのような影響を与えているかの検討が期待される。
最後に今回扱った「国立大学における学習過程」は,大学側の意思決定と同時に競争条件を設定する文科省などの政策当局の政策デザインや目的とセットであり,すなわち,ゲームのルールとそれへのゲーム参加者の行動によって決定されていることを意味する。これゆえに,ゲーム論,エージェンシー理論等を用いつつ実証分析の範囲をそれぞれの意志や意図を広げながら考慮を深めることなどが今後の課題にあげられる14。
*本稿は科研費(22K02683)による研究成果の一部である。